【星幽塔】そしてまた『日常』へ｜リアクション

【星幽塔】そしてまた『日常』へ

【第一階層(13)】迷い猫と鵺の肉

　その日、旅鴉月詠は、第一階層のカフェ『迷い猫』の店主として、客を待ちながら、同時に新商品の開発に取り組んでいた。
「……さて、とりあえず依頼を張り出してみたはいいが」
　ぽつり、と呟きながら月詠はカウンターに置いた一枚のメモに『鵺』と書き出してみる。
（なにしろ鵺料理などというものは今まで食べたことがないからね……。そもそも食用に適しているかどうかもわからないわけだが……）
　だからこそ、試してみたくなるのは、月詠が好奇心旺盛な芸術家気質の少女であったからかもしれない。
　ちなみに、何故、鵺なのかと言えば、今朝、クエストボードに張り出された依頼をチェックしてみれば、そこに鵺を退治して欲しいという面白そうな依頼を見つけることができたからだ。
（鵺肉、じつに興味深いね……）
　と、そこで月詠はさっそく自身も依頼をボードに張りつけたのだった。

『鵺の各部位のブロック肉を持ってきて欲しい。報酬は食材を使った一品料理と酒場のエールをおごりで』

（さて、いったい誰が持ってきてくれるのかな？）
　などと思っていた矢先、カフェの扉が開いて、ひょっこりとウサギの耳が姿を見せた。
「ツクヨミ、依頼見たぞ！　鵺肉持ってきた！」
　つい先程、同行した冒険者達ともに城下町へ戻ってきたばかりのアスワド・クロノワールの姿だった。
「おや、誰かと思えば、アスワドじゃないか。さすが戦闘民族ヴォーパルバニー族だ。仕事が速いね」
「むふー！　それほどでもあるぞ！」
　月詠の言葉に、アスワドは満更でもなさそうに小さな胸を張り、持ってきたブロック肉を下す。虎の腕肉。蛇の尾肉。それから謎の胴体の肉。
「ありがとう。感謝するよ。早速検分したいのだけど、いいかな？　ああ、待ち時間に何か飲んでいくかい？」
「前のコーヒーというの、甘いのとミルクを混ぜてちょーだい！」
　アスワドの注文に頷き、月詠は手慣れた様子でコーヒーを淹れながらアスワドに狩りの様子などを訊ねてみる。
「どうだい？　やはりシャウラヌエは手強かったのかな？」
「火を噴いてきた！　あと尻尾の蛇が噛みついてきた！」
　アスワドはひとくち啜ったコーヒーをカウンターに置くと、大げさな身振り手振りをくわえて、森での狩りの様子を話し始める。
「ああ。シャウラヌエは火を吐き、空を飛ぶらしいね。灼熱の炎を吐き出してなお生きていられるヌエの喉肉がどのようなものなのか、興味深いね」
　一つ一つの話に丁寧に頷きつつ、月詠は鵺の検分を進めていく。蛇の毒は成分を調べて薬の開発に。虎の腕は塔の外ではめったに食べられない稀少な肉であり、かつ、強壮効果もあるが、ややアンモニア臭のある肉として、素材を活かしたアレンジを考えてみる。
「ちなみに蛇の肉というのは、鶏肉と似ていてなかなか美味らしいよ」
「そうなんだ！　じゃあツクヨミ、ボクに蛇肉の料理頂戴！　あとコーヒーおかわり！」
「蛇肉料理ね。わかった。コーヒーもすぐに用意するよ」
　うちの味を気に入って貰えたようで何よりだ、と小さく微笑みつつ、月詠はコーヒーのおかわりを提供し、鵺肉の調理に乗り出す。内臓は何を食べているかわからないので、使わない。
　まず蛇肉を小さく切りわけて、醤油などで下味をつけて、小麦粉等をまぶしてから揚げ風にする。
「ツクヨミ、いい匂いしてきた！」
　と、アスワドが声を上げれば、
「うん。もう少しで終わるから、あとちょっとだけ我慢していてくれ」
　と、月詠が応じて、さらに調理を続ける。
（一応、客商売だからね。万が一、口や身体に合わなかったときのためのフォローも準備しておこう）
　月詠はそう考えて、『回復のドラゴンロール』の仕込みも済ませておく。星型・雲形の薬草に日輪の花を混ぜ込んだ挽肉をタネとして使用した、言うなれば食べる回復薬（ポーション）だ。
　ちなみにこれらの薬草は香草として、虎肉の調理にも用いた。
「さあ、できたよ。『虎肉の香草焼き』と『蛇肉のから揚げ』だ」
　と、盛りだくさんの料理を運ぶ際は、新たに目覚めた魔星の力を使う。
「おお！　凄い、料理が浮いてる！」
　まるで子供のように（実際、彼女の年齢はまだ１４だが）、きゃっきゃとはしゃぐアスワドに月詠は相好を崩しつつ、
「さあ、どうぞ。お腹が痛くなったら食べる薬草も用意してあるからね。食べたら感想を聞かせてくれ」
　自分もカウンターの座席にアスワドと並んで腰かけ、それからしばし世間話などに花を咲かせるのであった。

このページにイラストを設定する

【星幽塔】そしてまた『日常』へ

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧