概念召喚ＣＧＯ　～大召喚舞踏祭～｜リアクション

概念召喚ＣＧＯ　～大召喚舞踏祭～

■絶大なる第三章　悲しみの鎖
　『詰み』という言葉がある。
　現代では主に将棋ゲームの用語として使われ、この先どのように動いても負けが確定してしまう状態を言う。
「いきなり優位をとっちゃって、なんか悪いな」
　卯木衛はにっこりと笑って、手を翳した。

「概念強化『君がいる世界』」
　聖獣カイと衛ふたつでひとつの概念英雄だ。
　その出会いは神話であり。
　その営みは神話となる。
　ゆえに彼らは、互いの存在しない世界を否定するのだ。
「カイくんが滅べば『怒れる子供による滅亡』。俺が滅べば『荒ぶる獣による滅亡』。どっちに転んでも、世界はその時点で消えるんだ」
「…………」
　衛が語りかけていたのは屋敷野梢。
　槍を持った概念英雄。
「世界最速なんだって？　攻撃をしようとした時にはもう終えているんだったっけ。変な魔物が教えてくれたよ。けどさ、『殺したらダメ』ってルールの前じゃ、無力だよな」
　衛は大地を殴りつけた。
　それだけで地面から無数の槍が飛び出し、梢を貫いていく。
　むろん抵抗はした。槍をつかって弾いたし、なんならかわそうともした。しかし地面を構成する物質が彼女の足に絡みつき、地面そのものが槍へと高速で変化しながら彼女を螺旋状に穿つのだ。
　それだけではない。
「俺の力は万物を、こんな風に」
　広げた手を握る衛。
　空気中の物質が強制的に変化し、恐ろしい爆発を起こした。
　体中に穴をあけ、吹き飛ばされる梢。
　吹き飛んだ先には高速で走ったカイが待ち構え、梢に食らいついた。
　食らいついたその時点で生命を奪うことが確定する牙。
　肌をさいたその時点で生命が失われることが確定する爪。
　その両方が梢へとめり込む。
「やっぱこうなっちまったか。一方的な勝負って、つまんないよな」
　梢の顔を覗き込む。
「魔物が白状したよ。俺たちを襲う魔物の親玉は、君なんだろ？」
　梢はこたえない。
「なぜ俺たちを襲った？　なぜ俺とカイくんを引き離そうとした？」
　梢はこたえない。
「ま、死んでちゃ答えられないか」
　背を向ける衛。
　に。
「死んでませんよー」
　と。
　梢がこたえた。
　ハッとして振り返る。
　地面の一部を超硬度のナイフに変えて梢の首に当てた。
　梢は目を開け、衛を見ている。
　カイの牙が刺さった存在は必ず死ぬ筈。
「なんでこいつ死なないんだ、って顔ですねー。私は、戦いを続けている限りは死なないんですよ」
「だったら、戦いを辞めたくなるまで殺すだけだ」
　首を叩ききろうとした瞬間、梢の身体が大きく動いた。
　無理にカイの口から離脱し、衛の背後に回り込む。
　振り向いて大気ごと切り裂くも、梢はその５メートル先に移動していた。
「けど、危なかったんですよ？　私がうっかり、死にそうになったんですから。だから……」
　梢が、かくんと首を傾けた。
「『かの私』が目を覚ましてしまいましたよ」

「概念強化『蝶』」
　周囲のあらゆる物体が蝶に変わる。
　大地も空も、草木も鳥たちも、そして梢の全身に刻まれた傷も。
「ものを蝶に変える力……じゃ、ない」
　一度浮かんだイメージを訂正して、衛は二歩、三歩、後じさりした。
　これはやばい。
　触れてはならないものだ。
「変えるだなんて、とんでもない。私はただ、付け加えるだけですよー」
　梢すら、蝶に変わっていく。
　あらゆるものに『蝶』の概念が加わり、羽ばたいて飛んでいく。
　あるべきところに飛んでいく。
　それは衛も、カイも、彼らの間にある絆ですら。
　蝶に変わって、飛び、どこかへと帰っていく。
　ひらひらと。
　てふてふと。