妖怪トレペちぎりの謎｜リアクション

妖怪トレペちぎりの謎

　妖怪トレペちぎりの意外な正体に生徒たちが沈む中、新たな集団がばたばたと駆けてくるのが聞こえた。もう妖怪騒ぎは終わったんだ。そう伝えようと男子トイレ内の皆が思った、のだが。
「トレペちぎりが女子トイレに入ったぞー！」
という女の大声が響き渡る。どやどやと人が隣に殺到する音が聞こえた。
「なっ!?　どういうことなんだ？」
マウル・赤城・スティックの疑問は、現在男子トイレ内にいる全員の疑問でもあった。

　先ほどの叫び声の主、桜崎巴の策略にはまって女子トイレに駆け込んだのは御剣刀、にゃーくんを抱えた桜庭円、小山内海、そして弘明寺能美子の四人であった。
「犯人が出ただと!?」
「どこ、犯人はどこなの？」
なぜか開いたままの女子トイレの入り口をくぐった瞬間、強いフラッシュの光が四人を覆う。閃光に目が眩む彼らに浴びせられるのは、高らかな嘲笑。視力が戻ると、いかにもしてやったりと言った顔の桜崎巴がいた。
「女子トイレに侵入する不埒な野郎ども！　犯行現場を押さえたよ！」
そう、これこそが巴の本当の狙い。対トレペちぎり捕獲作戦の立案も、積極的な行動も、すべてはこの瞬間のため。『バカな男子生徒の弱みを握ってやる』ことこそが彼女の真なる目的であったのだ。
「え……。でも、これってどうなわけ？」
能美子には状況が飲み込めない。円はきょとんとし、刀だけが青くなって口をぱくぱくさせている。
『だんしはかたなくんだけだよ？』
海は怪訝な顔をしながら、スケッチブックに書き込んだ発言を巴に見せる。今度は巴があっけに取られる番だった。
「何だってエ!?」
隣の男子トイレからは、呆れ顔のマウルが現れた。その後ろにはタオルに包んだカラスをしっかと抱えた大天使天吏、握利平、逆巻天野、晴海飛鳥が立っている。皆一目で、怪異の正体、そしてついに妖怪事件が終わりを迎えたということを理解した。犯人は見つかったものの、この鳥を一体どうしたらいいのだろう。どの生徒も、最後に残った疑問を解決できずに揺れていた。
「どうしようね、この子……」

「私がしばらくの間は面倒みようかねぇ」
振り向くと、チョーさんこと用務員の長南武治がいた。疲れ果てた顔をした八神修と後木真央も一緒にいる。武治は天吏が抱えるカラスを見やると、ふう、やっと追いついたよ、と笑顔を浮かべて言った。
「この島はなにやら不思議なことも多いからね。この鳥もそんなのにひっかかっちゃったんだろうね」
「これが……トレペちぎり!?」
修は息を切らせながらも、驚きを隠しきれない様子だ。
「元気になるまで、用務員室で預かるよ。餌もちゃんとやるから、心配いらないからね」
「やった♪　妖怪タイホなのだ！」
と、真央はあくまで陽気で能天気。さすが体育科、体力は完全回復しているらしかった。
「……ちぎりに会いに行っても、いい？」
「ああ、いいとも。この鳥、ちぎりちゃんて言うのかい？　いつでもいらっしゃい。でも、授業はきちんと受けないとだめだよ」
赤くなった目で問う天吏に、チョーさんは優しく答えるのだった。
「また、あのすごい手品を見せてくれてもいいんだよ」
　暖かい雰囲気が部室棟のトイレ周りを包む中、最高の計画が実を結ばなかった巴と、たった一人女子トイレに侵入したムッツリの汚名を着せられた刀だけは、脱力した様子で壁に寄りかかっていた。

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