NEKOJIMA GET BACK　ユメユメ事変・後編｜リアクション

NEKOJIMA GET BACK　ユメユメ事変・後編

■ユメユメ事変・エコー：九夜山展望台前
　大量のロープが鞭のようにしなり、襲いかかる。
　おきた風圧を羽にうけて、風に舞う葉もかくやという軽やかさで空に浮かび上がる。
　はばたきを調整して身をひねり、手の中に沢山の医療用メスを握る。
　狙いも大雑把に投げつけたなら、メスはユメユメの人形たちを切り裂いていった。
「うん、まあ。こんなところですかねー」
　はばたきもそこそこに着地し、風に乱れた髪を指で直す屋敷野梢。
　木々に囲まれた九夜山の、太い枝の上である。
「それにしても、よくもまあワラワラと沸きますねー。虫だってここまでくどくないですよ」
「ま、ある意味虫みてーなもんだろ」
　ぎゅっと拳を握る如月庚。
　樹幹を縫うかのごとくジグザグに走る彼の、青い光の軌跡が伸びる。
　オモチャの兵隊が木の上からぱらぱらと落ちてきては、パチンコ玉のように石を放ってくる。
　それを一発二発と紙一重でかわし、正面に迫った石を拳で打ち砕き――ながら、その余力で兵隊の顔面をも粉砕した。
　身体ごと向きを変え、再びスリングショットの狙いをつける兵隊たち。
　しかし庚は彼らよりも早く地を蹴り、腕と腰のひねりから打点の高い回し蹴りを放っていた。
　ビスケットでできた腕ごとスリングショットが飛んでいく。
　ただの蹴りではない。靴底に鉄板を仕込んだ重量のある蹴りである。
「しっかし……話を聞くに、ユメユメにとりつかれた連中ってのは本当にバラバラなのか？　共通点がありそうな感じがするぜ」
「なんでしょうねえ？　普段暴れたりしなさそうな……仮に事件を起こしても『そんなことする人には見えなかった』て言われそうなタイプですか？」
　梢の皮肉のきいた言い方に、庚は小さく顔をしかめた。
　毒舌や皮肉がただの悪口と異なるところは、それが人を癒やす薬になりえる部分にある。
「言い得て妙、ってやつだな。多分そこだぜ、事件の真相ってもんがあるとすれば……」
　世間から見れば、今回のユメユメ騒動は一般人の豹変だ。
　日頃温厚な人物が突如身近なものを傷付ける。
　それを見た人々は突然の蛮行として驚愕し、口々に『こんなことする人だとは思わなかった』と述べるだろう。それによって壊される日常とはつまり……。
「安全神話の崩壊」
　優しい人は他人を傷付けないという常識。
　道行く人が突然襲いかかってくることがないという日常。
　かの神様が述べる『フツウ』。
　庚や梢はその力を分け与えられているがゆえフツウの破壊はできないが、同様の力をもつ別の勢力が存在していたなら、同じようにしてフツウを破壊してくるだろう。かの神様が世界をキライになってしまえば、それはもう、庚や梢が大切にしているあれもこれもを巻き込んだ大崩壊へと転げ落ちていく。
「チマチマしてるようで、案外効果的かもしんねーぞ。ご近所さんの嫌がらせみたいによ」
「となると、そういう連中にとって最も邪魔なのは『私たちみたいな存在』ってことになりますね」
　片眉を上げる梢。
　舌打ちする庚。
　そして梢が指をパチンと鳴らしたとたん、無数の自動車が降り注ぎ人形たちを踏みつぶした。
「なら、精々引っかき回してやろうぜ」

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