NEKOJIMA GET BACK　ユメユメ事変・後編｜リアクション

NEKOJIMA GET BACK　ユメユメ事変・後編

■ユメユメ事変・デルタ：寝子電スタジアム
　沢山の野球ボールが組み合わさっていく。
　人型にまとまった物体を見て、椿美咲紀はごくりと息を呑んだ。
「ユメユメって、思ったよりシュールな見た目をしてるのですね……」
　ここは寝子電スタジアム。野球ができるほどの広い人工芝生の真ん中で、美咲紀は無数のユメユメ人形に囲まれていた。
「けどそういうことなら、遠慮無くやっつけられるのです！」
　相手が人間だったら傷付けないように気を遣うところだが、野球ボールなら大丈夫。
　美咲紀は手を天空に翳し、ササヤキの力をコールした。
　光が走り、美咲紀の手の中に現われる金属製の棒。
　身の丈よりもながく、硬く、そして各所に樹脂製のグリップがついたそれは……。
「薙刀か？　それにしては変な刃だな」
　小首を傾げる八神修。
　クレー射撃の競技に用いる上下二連銃を手に、人形たちを近い順に射撃していく。
「なぎなたじゃないのです。第一、いくら強力でも持ったことのない武器は扱いづらいのです！　これは――」
　ここ一番の勝負時に、手になじまぬ武器を持っていく武将がおろうか。
　ゆえに美咲紀が選んだ長柄武器は。
「高枝切りバサミなのです！」
　軽くて上部で取り回しやすく２メートルから３メートルまで伸縮する便利なお庭道具。今なら太い枝も楽々切れる太枝切りバサミと剪定バサミ、そして柄に取り付けて使用できる専用のこぎりもついて今なら一万円のご奉仕価格――の高枝切りバサミである。
「二万円のプロ仕様になるとその頑丈さと切れ味は並の武器を上回るのです」
　すごい真面目な顔をして言うので、修も『そういうものなのか』と勢いに呑まれていた。ホントに高枝切りバサミを振り回して戦おうとすると柄が折れたりノコギリが曲がったりするのでよい子はまねしないようにしましょう。このアイテムは女神の特別製なのです。
「とにかく、どこからでもかかってくるのです！　邪魔な小枝のようにすぱすぱ落としてあげるのですよ！」
　てやーと言いながら頭上でくるくる回し、遠心力を込めて薙ぎ払っていく美咲紀。
　修も負けてられないなとばかりにライフルの狙いを鋭く定めた。
　射撃とは人体を機械化する作業だ。
　とらえる。整える。トリガーを引く。リロード。
　肉体はセンサーであり照準器である。精神的肉体部位は指とトリガーを通して撃鉄にまで延長され、撃鉄と火薬の動作を筒の螺旋で調節しながら的確に移動させる。
　移動が済んだら後は計算通りに飛ぶことを期待し、次の動作に向けてリロードを始める。
　この射撃というスポーツは、修の『役割をこなす』という才能の見せ所でもあった。
　着弾した人形がオモチャやお菓子ごとにばらばらに散っていく。
　修はその特徴を観察した。
「俺のろっこん能力も通用しそうだ」
　もうかなり今更な説明になってしまうが、修の能力『分解』は対象物に触れ精神を集中させている間、対象物を分解するというものである。
　勿論原子崩壊や分子結合の解除の話になってくるともう別の能力なので地球がいきなり滅びることはないが、限定した状況においては無敵の能力でもあった。
「死角をつこうとしても無駄だ」
　後方から剣を打ち込んできた人形を敏感に察知して回避。すれ違いざまに手を押し当て、分解能力を発動させる。
　次合わさっていたオモチャやお菓子が外れていき、オモチャごとに分解されていった。
「お前たちが人形であってヒトではないなら、俺の敵じゃあない」
「それにしても、シュー君」
　美咲紀は人形たちと戦いながら、ふと思い出したように呟いた。
「オモチャやお菓子が襲いかかる夢だなんて……なんだか寂しい夢ですね」

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