NEKOJIMA GET BACK　ユメユメ事変・後編｜リアクション

NEKOJIMA GET BACK　ユメユメ事変・後編

■ユメユメ事変・アルファ：旧市街表参道奥
　何気ない日常。
　昨日と同じように来る明日。
　そんな日々を脅かすものがある。
　伊藤美緒は謎の『ササヤキ』に導かれ、人々の夢の世界へとやってきた。
「ここが夢？　現実と変わらないみたいだけど……」
　偶然にもそこは、美緒のよく知る道場の前だった。
　現実と違いがあるのなら、見慣れた場所ほど分かりやすい。
　がらりと道場を開く。
　いつもはあるはずの生活感が、そこにはない。
　中央まで歩いて行ったところで、ぼたり、と何かが落ちた。
　慌てて振り返る。天井から何か黒くて甘い香りのするもの……熔けたチョコレートが落ちたのだ。それも手のひらにのるような量じゃない。人体ひとつ分はあろうかという体積だ。
　しかもひとつならず、ふたつみっつ、美緒を取り囲むようにぼたぼたと落ちては、球体関節人形を模したような形へと整っていく。
「これがユメユメってわけね。いいわ、伊藤宗家の力、見せてあげる！」
　パッと手をかざせば、どこからともなく日本刀が現われた。
　刀身のが鏡のように磨かれた、美しい刀だ。どっしりと重い鉄の塊なのに、日頃扱う竹刀や木刀のように軽々と取り回せた。まるで身体の一部のようだ。
　黒い闇の刀を振りかざし、正面から切り込んでくるチョコレート。
　サイドステップで上段斬りを回避。続けて横から切り込んできた相手に深く踏み込んで二打連続ですりぬけると、翻って背中を切りつけた。
　だがここまでは初歩の初歩。
　真骨頂は多対一の乱戦である。
　四方から同時に打ち込むチョコレートたち。
　美緒は刀を左右に振ってから身を翻すと、自らへ向かう刀のきっさき全てにちょっとずつ触れて軌道をそらし、僅かに作った線の隙間を抜けていく。
「さすが一刀流払捨刀。防御はカンペキね」
　かちりと手首を返し、素早くチョコレートを切り捨てていく。
　すべてのチョコレートが切り捨てられ、崩れ落ち、溶けるように消えていく。
　美緒は刀を下ろして深く息をついた。
「これでおしまいかしら」
　と思いきや、である。
　道場の天井を破り、オモチャの兵隊が次々に着陸。手にしていた鉄砲を美緒へと構え始めたでは無いか。
「ちょっとなによそれ、ずるい！」
　咄嗟に刀を構える美緒――の前に、新たなる影が降下する。
　幼い顔つき。
　真面目そうな眼鏡と、開放した額。
　クラスの委員長でもしていそうな女子高生が、すっくと美緒の前に立ちはだかる。
　その細い背中がなぜだか大きく見えて、美緒は目をこすった。
「こちら、あなたのお客さんですか？」
「道場の屋根を壊すお客さんなんていないわよ！」
「ですよねえ」
　女子高生――絹織真由良は眼鏡を外し、一度目を閉じた。
　なにが起こるのか？
　手から火を噴いたり、機関銃を取り出したり、なにかキラキラしたものでオモチャの兵隊を攻撃するのだろうか。
　そんな予想のあれこれを。
　まばゆい光が裏切った。
「……なに、これ」
　美緒の前に現われたのは、黒くて大きな……。
　テレビアニメや漫画で見るような……。
「ろぼ、っと？」
「フェノメノンってんだ。よろしくな」
　くぐもった、中身の分からないような声で言う。
　フェノメノンは鋼鉄の身体を広げると、兵隊たちの嵐がごとき射撃を受け止めた。
　表皮、もとい装甲をはねてどこかへ飛んでいくコルク弾。
「おいおい、そんなもんかよ。パーティークラッカーかと思ったぜ」
　発光するフェノメノンの額。
　角のような赤い結晶体は赤いレーザーを放つと、キュンという音と共に右から左へ薙ぎ払った。
　まるで熱したワイヤーで斬られたかのようにばらばらと崩れ落ちていく兵隊たち。
　まるで一瞬。ありを踏みつぶすがごときだ。
「すごいわね。中に入って動かしてるの？　それとも変身したの？」
「細けえことは言いっこしだ。それより、次が来るぜ！」
　ごん、と拳を打ち合わせるフェノメノン。
　道場の扉を突き破り、お菓子を組み合わせたような人形たちがなだれ込んでくる。
　飛びかかる人形を掴み、振り回し、後続へと投げつけるフェノメノン。
　一方で美緒は鋭く切り込み、人形を次々に切り捨てていく。

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