ラブ☆部活＆同好会デー｜リアクション

ラブ☆部活＆同好会デー

　武道場の二階で剣道部の体験入部が始まった。顧問の島岡雪乃は隅の方に座って活動を微睡むような目で眺めていた。
　御剣刀は背筋を伸ばした姿で生徒達と向き合う。
「これから体験入部を始める。怪我をしないように最初に準備運動を行う。その後、この場で軽いランニングをする予定だ。わかったか」
「わかりました！」
　威勢の良い声が上がる。
　その中には響蒼留人も含まれていた。刀に倣って手首を回す。腕や腰も入念に行い、跳躍を始めた。全身の力を抜くようにして繰り返す。
　蒼留人の目が横に動く。雪乃は日溜りにいるような安らいだ表情で見ていた。
「次は屈伸だ」
　目を戻した蒼留人は刀の動作を真似た。続けて両足を揃えた状態で膝を回すように動かす。左右のアキレス腱を伸ばし、前屈と後屈を交互に行った。腰や腕を回して身体の隅々まで伸ばし、深呼吸を経て終わった。
「俺が先頭を走る。後に付いてくるんだぞ」
　地鳴りのような返事を受けて走り始める。同じペースを維持して周回を重ねていった。
「ここまで！　次は素振りを行なう」
　他の部員達が生徒に竹刀を渡した。素振りの方法は刀が伝えた。
「素振り、始め！」
　刀に合わせて全員が竹刀を振る。前後に動きながら同じ調子で振り続けた。そこで乱れが生じた。斜めに振り下ろす者がいれば、その逆で斜めに引き上げる者がいた。竹刀に振り回されるかのように上体を揺らす者が何人も見受けられる。
　蒼留人は真っ直ぐに竹刀を振り下ろした。軌跡をなぞるように引き上げる。しっかりとした姿勢で素振りをこなす。
　刀の目にも留まった。その視線に蒼留人は気付いていない様子で目を横に向けた。その時、雪乃は欠伸をしていた。眼鏡の間に人差し指を入れて目尻を拭う。
「素振りはここまでにしよう」
　蒼留人は振り上げた竹刀を右手に持ち、刀の言動に注目した。
「本当は地稽古をしたいところなんだが、制服では動き辛いと思うので、そうだな。剣道の心構えみたいなものを伝えたいと思う」
　素振りの影響で生徒達の息は荒い。落ち着く間を空けた。
「どの部活もそうだと思うが、基本的には楽しめればいいと思っている。楽しみ方がわからなければ俺に聞いてくれれば、先輩として多少のアドバイスを送ることは出来ると思う」
　生徒達は真剣な表情で話を聞いていた。
「俺は心から剣道を楽しんでいる。この道を極めたいと本気で思っている。俺と同じように君達が剣道を楽しんでくれたら嬉しく思う。どうだ、一緒に剣の道を突っ走ってみないか！」
「やります！」
「僕も頑張ります！」
　生徒達の威勢の良い声が集まった。雪乃は柔らかい表情で成り行きを見守る。
　蒼留人は刀の下にいく。
「俺も入部します」
「本気だったんだな。良い素振りをしてたぞ」
「ありがとうございます。改めてよろしくお願いします！」
　胸がすくような声であった。
「よろしくな！　それはそうと、あれだ」
　刀は雪乃の胸の辺りをちらちらと見ながら聞いた。
「やっぱり、大きいのが好きなのか？」
「そうですね。大きいことは悪くないと思います」
「そうなんのか。そこには男のロマンが詰まっているのかもな」
「ロマンですか？」
　刀は自身の掌に目を落とす。全部の指を少し曲げて、何かを握るような動きをした。