ラブ☆部活＆同好会デー｜リアクション

ラブ☆部活＆同好会デー

　体育館前、羽生碧南はバスケットボール部員として勧誘を行っていた。そこに鷹取洋二が現れた。碧南の自作のチラシに描かれたイラストに目を留めると深い思考に陥ってしまった。目を離せなくなった碧南もまた、停滞を余儀なくされた。
　見兼ねたバスケット部員の女子が碧南の肩に手を置いた。
「ここは私達に任せていいよ」
「あ、でも悪いよ」
「いいから」
　他の部員は苦笑して手で払う。どこか楽しげであった。
　洋二は顔を上げた。碧南に熱い視線を向ける。
「羽生君、これから美術室まで一緒に来てくれないかい？　君の感性に触れて個人的にレクチャーしたくなったんだよ」
「それは、はい、喜んで」
　乙女ゲームの主人公のようにしおらしい態度で答えた。

　パンツルックで城山水樹が軽快に歩く。バスケット部のユニフォームを目にした。
「懐かしいわね」
　切れのある動きで行き先を変えた。
「仕方ないわね」
　体育館に土足で上がる訳にはいかない。速やかにパンプスを脱いだ。履いていた靴下は丸めて靴の中に押し込む。
　バスケット部の部員が生徒達の前で講習を行っていた。間もなく二人一組となって基本であるチェストパスを始める。
　組む相手がいないのか。一人の女子が困ったような顔で立ち尽くす。
「そこのあなた、私が組んであげるわ」
「え、でも……」
　突然のことに女子は言葉を濁して部員の方に目を向ける。気付いた一人が水樹のところに駆け寄った。
「お久しぶりです、城山先輩」
「本当に久しぶりね」
「今日はどのような御用でいらっしゃったのですか」
「別件でこの辺りにきて、面白そうなイベントを見たら急に懐かしくなってね。それとＯＧらしく、少し身体を動かしたくなったのよ」
　水樹は柔らかい笑みで答えた。
「とても助かります。ご指導の程、よろしくお願いします」
「ま、軽くね」
　バスケットボールを受け取った水樹は待たせていた女子に声を掛けた。
「そろそろ始めるわよ」
「よろしくお願いします！」
　不安が解消された女子は元気な声を返してきた。
　水樹はその場で数回、ボールを突いた。左右で試したあと、ボールを胸元の位置に構えてパスを出す。
　女子は顔を背けるような仕草でボールを受け取った。透かさず水樹の声が飛ぶ。
「ちゃんと前を見て取らないと危ないわよ」
「ご、ごめんなさい。ボールが強くて、びっくりして、次は頑張ります！」
　ボールを持ち直して女子は前につんのめるようにしてパスを返す。途中で失速して一回のバウンドで辛うじて届いた。
「……ごめんなさい」
　縮こまって謝る女子に水樹はアドバイスを送る。脇を締めてボールをしっかりと胸元に構える。足を踏み出す勢いと一緒に腕を真っ直ぐに伸ばす。最後はスナップを利かせて投げる。
「これは基本だけど、ある程度の筋力は必要よ」
「わかりました。試してみます」
　女子は言われた通りに脇を締めた。ボールを胸元に構えて踏み出した一歩の勢いに乗せてボールを強く押し出した。
　緩やかな回転が加わったボールは水樹の胸にダイレクトに届いた。
「ナイスパス」
「ありがとうございます！」
「お礼に良いものを見せてあげるわ」
　突然、水樹はドリブルを始めた。申し分ない助走の最後に跳んだ。両手で持ったボールを頭上に押し上げてゴールに叩き込んだ。
　水樹のダンクシュートに周囲は沸いた。そこかしこで起こる歓声に本人は涼しげな顔で軽く手を挙げた。
　――危なかったわ。もっと跳べると思ったんだけどね。
　内心を感じさせない表情で声援を一身に受けた。