ラブ☆部活＆同好会デー｜リアクション

ラブ☆部活＆同好会デー

　正門から少し離れた位置にサキリ・デイジーカッターはいた。近くには小さな台が置いてあった。その上には保温性に優れた容器。白いティーポットに寄り添うようにティーカップが何客も載せられていた。
　サキリはちらりと台を見たあと、手に持ったチラシを配り始めた。
「茶道部だよ。カフェテラスの一部を借りてアフタヌーンティーをするよ」
　その声に女子が立ち止まる。サキリは軽い身のこなしで近づく。銀色の前髪が微かに掛かる赤い瞳で微笑む。
「来て欲しいな」
「……はい、行きます」
　女子はしおらしい声でチラシを受け取った。放心したかのように佇み、程なく顔を赤らめて駆け出した。
　サキリは女子を中心にチラシを配る。自身の容姿を存分に活かした。爽やかな笑顔を振り撒き、同時に鋭い視線を放つ。
　――体育系は派手だね。地味な文化系は少し不利か。人も集まってきた。そろそろ人目を引くパフォーマンスに切り替えるか。
　台の端にチラシの束を置いた。細長いティーポットに容器の中身を注ぎ入れる。茶色い液体が微かな湯気を上げた。
　サキリは右手にティーポットを持った。左手にはソーサーに載せたティーカップ。滑るように道の中央に出ると、誰ともなしに一礼した。
「茶道部は幅広い活動をしていて、中庭のカフェテラスを使って茶会を予定しているよ。少しでも興味があったら、気軽に足を運んで欲しい」
　サキリは右手のティーポットを高々と上げた。逆にティーカップを極端に下げる。その状態で紅茶を注ぐ。細い紐のような液体をティーカップが受け止めた。
　疎らに拍手が起こる。何人かは見逃したものの、足を止めた。中心にいる人物に目を注ぐ。
　僅か数秒でサキリは注目を集めた。
　――まだ終わりではないよ。
　半分程、注いだティーカップを後ろに回す。目にした生徒達がざわめく。
「茶道部をよろしく」
　涼しげな顔で紅茶を注ぐ。サキリの背中を掠めるように流れ落ちる細い線はティーカップに吸い込まれていく。微かな音の変化を聞き分けてティーポットを縦に戻す。易々と細い線は断ち切られた。
　近くにいた女子にサキリは紅茶を差し出す。中身は八分目であった。
「ダージリンの香りを楽しんで」
「……あ、はい、ありがとうございます」
　夢から醒めたように女子は受け取った。割れんばかりの拍手が二人を包み込む。
　その中に紗雪幽もいた。耳い赤いピアスを付けて不敵に笑う。緩やかな拍手を送りながらサキリに声を掛けた。
「先輩、いいっすねー。俺も人を驚かせるのは好きなんで、なんか足が止まっちゃいましたよ。それ、なんて作法なんっすか？」
「作法ではないよ。パフォーマンスかな。カフェテラスではちゃんと淹れるつもりだよ。茶道部に興味はあるのかい？」
「どーっすかねぇ。汗臭い熱血路線じゃないなら、なんでもいいって感じなんで」
　幽は鋭い眼付きで笑った。
「部活動はたくさんあるからね。色々と見てから決めてもいいと思うよ。出来れば茶道部を選んで貰いたいけどね」
　サキリは紅茶を飲み終えた女子を愛想よく送り出す。空になったティーカップを手早く片付けて幽と向き合う。
「じゃあ、あとで寄らして貰うっす」
　黒いカーディガンのポケットに片手を突っ込む。一歩を踏み出したところでサキリに顔を向けた。
「この学校、面白いっすね。入学して良かったっすよ」
「僕も気に入っているよ」
「今日の授業がなくなってラッキーっすよね」
　幽の言葉にサキリは困ったように笑った。人差し指と親指で僅かな隙間を作り、これくらいかな、と控え目に答えた。
「じゃあ、またっす」
　顔を突き出すような一礼で幽は他の勧誘に目を向けた。ぶらぶらと気ままに歩き出す。サキリは一度、台に戻った。端の方に置かれた茶碗が目に留まる。
　――エア茶道をしようと思ったけど、少し地味かな。
　自身の考えに納得したのか。空になったティーポットに熱い紅茶を注いだ。