●作業２日目（１）　ポロリもあるよ！●


　翌日の、放課後になった。
　前日のばか騒ぎで、疲労困憊＆満身創痍（？）のプール復旧メンバーに、今日は新たな助っ人が加わった。後木 真央、哀坂 零葉、横嶋 下心、畑生 言嗣、桜崎 巴、魂行 凪らの６人である。
「これはっ！　大事件なのだ、
　食べても食べても太らない、夢のダイエット食なのだ！？」
　まず猫鳴館方面から、猫車を押して駆け付けたのは、後木 真央だった。その手押し車の上には、大鍋と調理道具一式、紙皿に割り箸、水槽やら虫取り網やらがごちゃまんと積まれている。
「ねこったーにＵＰしたからきっとおにゃのこが、
　魚を狙うネコのように目をギラギラさせてお手伝いに来てくれるのだ！
　真央ちゃんも何匹かドジョウさん飼いたいのだ、夢のダイエットフードサプライなのだ！」
　そう言う真央も、お目々きらっきらである。その後からこちらも思惑ありげなニヤニヤ顔でついて来たのは、同じく猫鳴館に巣喰うツッパリ少女、桜崎 巴だ。どう見てもダイエット目的ではない。
「ええとマユミって言ったか？」
　田村マユミを見つけるなり、カツアゲせんばかりの迫力でフェンス際に追い詰め、
「捕まえたドジョウは、もちろん１匹くらいは報酬ってことで貰って行っていいんだろ？」
「は、はいぃ……。た、大切に育てて下さるのでしたら……」
「安心しな、別に取って食うつもりはないさ（ぷはー）」
　シガレットチョコの架空のケムリを浴びせ、けほけほ涙目のマユミの肩をなれなれしく叩く巴。
（これで猫鳴館にも、自動豆腐製造水槽が作れるってこったね。
　ついでに追い追い、えげつない使い道でも考えてみることにしようかい……）
　ワッルい顔でほくそ笑む巴とは対照的に、ただドジョウたちを救いたい、その一心でプールにやって来た者もいる。無表情ながら生き物を愛する心では誰にも負けない、魂行 凪だ。
「ドジョウ……助ける……」
　たどたどしい片言ながらも、田村マユミに話しかけ、もしドジョウがこのまま食べられてしまうか、人々に迷惑をかけるようなら、自分に譲ってくれないか……と提案する凪。
「キュキュ、キュウ！」
「あら、ドジョザベスにドジョザンダー……その方が、気に入ったの？」
　マユミの頭上の金魚鉢にいた、すでに前日に救助済みだった２匹が、簡単に凪になつくのを見て、顔をほころばせるマユミ。
「あなたなら、大事にして頂けそうですね」
「くす……ぐったい……」
　金魚鉢に入れた指先を、２匹に交互にキスされて、無表情で分かりづらいが嬉しそうな凪である。

◇

「よーし、俺も一生懸命ドジョウを捕まえるよ！」
　一方、ヨコシマな下心アリアリで、このプール復旧作業に参加している者もいる。言わずと知れた『桃色破廉恥小隊』の隊長、横嶋 下心である。学校指定の水着に着替えて準備もＯＫ、網とバケツとドジョウを持ち運ぶビニール袋も用意して、やる気満々だ。
「まあ横嶋様、ご協力有り難うございます」
「そして捕まえたドジョウは、俺からマユミちゃんにプレゼント！
　お礼におっぱい揉ませてもらおう。ヒャッホイ！」
「ふぇ……なっ、ななな何を言ってるんですか！」
　爽やかな横嶋の外見にだまされていたマユミが一転、胸をばってんに押さえて後ずさる。ちなみに今日は水着に着替えてきたマユミだが、胸はそんなに無い。せいぜいＢぐらいだ。
「おっとそこの変態総代、見るならあたしのスタイルに見惚れな」
「あっ、このスカートは！？」
　ばふっ、と顔に投げ付けられたスカートを手に横嶋が振り向けば、そこで傲然と胸をそびやかしているのは、先ほどの桜崎 巴だ。脱ぎ捨てた制服の下はもちろん水着、そして色気の無いいつものロンタイ姿とは裏腹に、意外にもスタイル抜群なナイスバディである。
「おっぱい！（反射的に）　ああっ巴ちゃん、またその魅惑のボディで俺を惑わすんだね！
　えっ何だって、マユミちゃんの代わりに、巴ちゃんがおっぱい揉ませてくれるって？（空耳）」
　ワーー、と突進してきた横嶋に狙いすました腹パン１発、
「げふっ！？」→「ミギャーー」→「アーッ！？（どぼーーん）」
　金属製のザルを頭から被せて視界を奪い、プールに蹴り落とす巴……よ、容赦の無い迎撃コンボだ。

◇

「やはり……プール開きともなりますと、浮かれる殿方もいらっしゃるのですね……。
　お豆腐で汚れてしまうと思って、私も水着に着替えてきたのですが……
　ま、間違いだったでしょうか……（もじ）」
　そう呟き、猫背ぎみに胸を隠しているのは、哀坂 零葉だ。彼女の場合は、ねこったーを携帯で見て、手伝いにやって来たのだったが、さっそく現れた変態に後悔しきりの模様。
「でもこれも……『学生支援部』の活動の一環ですから。わ、私も頑張らねば……」
　借りてきたスコップを持ってプールに入り、真面目に豆腐の撤去作業を始める零葉。潔癖症持ちの彼女は、ぬるぬるしたドジョウ回収よりも、豆腐のお掃除の方を選択したようだ。
　また、零葉が早々にプールに入ったのは、ちょっと人目を避けるためでもある。すらりと見事に痩せ、容姿のレベルは決して低くない零葉だったが、胸が無いことだけにはひどくコンプレックスを持っているらしい。
「それにしても……見渡す限り豆腐ですね……一体何キロですか……これ」
　はあ、とタメ息をつき、改めてプールを見回す彼女。水泳部などの前日からのメンバーが、作業の続きに取り掛かってはいるものの、疲れでも残っているのか、今日はあまり捗ってはいない様子である。
　そのうちの１人・鏡箕 萌が、零葉と同じくスコップで掘り返しては、豆腐を食べているのを遠目に見ながら、
「元はプールの水なのに……これが解決して戻った時、大丈夫なんでしょうか？」
　と心配になる零葉。
「ふむ……しかし何故、木綿ではなく絹ごしなのだろうね？」
　いつの間にか側で作業をしていた畑生 言嗣が、そんな疑問を彼女に投げてくる。
「え……。さ、さぁ、どうしてでしょう……」
　首をかしげる零葉だったが、畑生自身、たいした興味があるわけでもないようだった。
「ふむ、まあどうでもいい。さっさと掃除を終わらせ、
　豆腐は味噌汁に、ドジョウは蒲焼にして食そうではないかね……っとと（つるっ）」
「えっ……？　って、キャーーーーーーーーーーー！？」
　畑生がわざとらしく手を滑らせたドジョウが、哀坂零葉の水着の胸に、すぽっとイン！！
「キュキュ〜キュッ！」
「ちょっ、やっ、ぬるぬる……動いて……いやああああ！！」
　水着のわずかなふくらみの隙間にそのアタマを突っ込み、尻尾はびちびち外に出してもがくドジョウに、絶叫する零葉。しかし潔癖症の彼女には、その尻尾を持って引っこ抜くこともできない！
「ははは、手が滑っただけだよ」
　畑生の方はとくに悪びれた様子もなく、「オウ、ノウ」みたいなポーズでいけしゃあしゃあとそんなことを言っている。
「取って、取って下さ……ああああっ（にゅるにゅる）」
　とか何とかやっているうちに、水着の中にドジョウが入っちゃった！
「ふむ、わざとでは無いとは言え、大丈夫かね？」
　いちおう紳士的に畑生が近寄ってきたその時、
　どばあっっ！
　目の前の豆腐を割って、さらに追加の変態男子、横嶋 下心が現れた！　悶えている零葉をひと目見るなり、
「あっ、これは仕方ないね！　事故だよ事故！（畑生も深く頷き）
　よし、ここは俺に任せて！　水着の中のドジョウを、
　俺が探してあげるよ！って、ア゛ーーーっ！？（げしっっ）」
　胸許に手を突っ込もうとした横嶋が、零葉の回し蹴りをクリーンヒットで喰らい、豆腐の水面を飛び石みたいに吹っ飛んでいく。何度も言っているが零葉は潔癖症なので、異性に素肌を触られようものならそれはもう、ものすごい嫌悪感を示すのである。
「ふう、ふう、ふう……」
「キュキュウ？？」
　怒りをみなぎらせた零葉のその水着の下から、さっきのドジョウがぽとっとまた落ちてきた。
「おや……？」
　その１匹を手に取り、どこから落ちてきたのかと首をかしげる畑生言嗣。賢明な紳士諸君であればすでにお気付きのことと思うが、寝子高の学校指定の水着は、いわゆる旧型スクール水着と呼ばれるタイプ。スカート状の前面部分が水抜き穴になっているため、水着の胸から入ったドジョウが、そのまま下から排出されたのである。
　零葉の胸には、ドジョウが引っ掛かるような隆起も無かったからね！（よかったよかった）
　↑めらあ……
　その畑生を赤い瞳で見据えながら、ゆらり、と零葉が立ち上がった。
「……さっき、わざと私にドジョウを入れましたね？」
「おや、疑うのかね？　この私を」
　ふんぞり返って、まだ傲岸不遜な態度を取り続ける畑生である。
「失礼極まりない奴だ、極刑がご希望のようだねぷげらっっ！？」
　裏拳１発が畑生のクールな顔にもろヒット、続いてアイアンクローでその顔面をメキメキと鷲掴みにして、豆腐の海に沈める零葉！
「って、ぷがっ、もがああああああああ！？」
　キレた哀坂零葉は、女性の敵に情け容赦ない……こうして横嶋下心、畑生言嗣の２人が、ドジョウ回収作業の志半ばで倒れたのであった。……合掌。

◇

「ふうっ、プールの中を一生懸命にドジョウ探してたら
　豆腐の抵抗感も凄くて疲れちゃったよ！」
　あ、いや、横嶋 下心の方は、まだしぶとく生きていた。エロに生きる、エロのためならどんなことでも頑張れるこの男の体力は、底知れないものがある。田村マユミのおっぱいをご褒美に揉ませてもらおうと、あれから自力で２匹のドジョウを捕まえた横嶋だ。
「ちょっと一休みしよう、っと」
　ざばりとプールサイドに上がった、その股間がしかし、やけにスースーするような……？
「あれ？　水着が脱げちゃってるよ！？」
　回収したドジョウたちと遊んでいた魂行 凪とマユミが、ついその声に振り向いてしまい、
「きゃあああああああああああああああ！！」
「あ……///」
　絶叫するマユミ、凪の方はぽっと顔を赤らめるものの、何故かそのままガン見？
「マユミちゃん！　俺のドジョウも！　俺のドジョウも受け取ってくれないかな！（爽）」
「イヤアアアアアアアアアアアアアアア！？」
「この……何度よみがえりゃあ気が済むんだい、この変態ゾンビ！！（スクリューげしっ）」
「ギャーーーーーーーーーーーーーーー！！」
　桜崎 巴に再びプールに蹴り込まれ、今度こそお陀仏になる横嶋なのだった……。

【１０１匹ドジョーズ回収状況】
畑生 言嗣（哀坂 零葉の水着から回収）……１匹　　
横嶋 下心……２匹　　
（残りあと７７匹！）