●作業１日目（４）　豆腐で遊ぼう●


　さて一方、プールに人型の穴を空けてご満悦の七音 侑の方は、
「あっ、桃原ちゃん発見！」
　同じ陸上部のマネージャー、桃原 空音をプールサイドに見付けて、ぶんぶん彼女に手を振った。
「わっ、侑ちゃんなのだ！　ねこったー見てくれたの？
　手伝いに来てくれてありがとう！」
　水着に着替えた空音もプールにダイブして、いっしょに豆腐の中で仲良く手を合わせてキャッキャッ。
「一緒にいっぱいドジョウ取ろうねっ！」
　手をにぎってそう喜ぶ空音に、「うに……？」と一瞬フシギ顔の七音侑。あっとなって、
「にゃははっ！　そういえばドジョウのこと忘れてたにー」
　とのこと。どうやら彼女、豆腐で遊ぶことの方で頭がいっぱいだったらしい。
「ドジョウを捕まえるのも、豆腐を食べるのもいいけど、こんな時こそ遊びたいにっ！」
「ダメだようっ。ドジョウ取りにはしっかり協力してもらわなきゃ！」
　おやどうしたんだろう、変態小娘が怒りだしたぞ？
「ドジョウは『地下帝国』にお持ち帰りするんだいっ！　飼育してイタズラに使うんだから！
　ドジョウぬるぬるの刑にも使えるし、ドジョウで出来た豆腐も売れるのだ！
　あとドジョウを【ピーーーッ】に【ピーーッ】するようなネタも出来ちゃうな〜♪
　ドジョウ〜♪　ニョロニョロ〜♪　うねうね〜♪　ぬるぬる〜♪
　ぐえーっへっへっへ！　地下帝国拷問官様のお仕置きだーーいっ！」
　ヨダレだっらーーと、巡る妄想にぐふふ笑いする空音に、
「もっ、桃原……ちゃ……ん？」
　空音の変態面を今まで見たことがなかった（そうなの？）侑が、全力でヒイているのを見て、ハッと空音が我に返った。あわててその場を取り繕おうと、
「そっ、そうだねっ！　ドジョウもいいけど、こんな時こそ遊ぶのだ！
　なにして遊ぶ？　豆腐投げ？」
「豆腐は、うーん……雪みたいに固められないから
　すくって投げるしか方法はなさそうだにー……、ってあれ？」
　そこで七音侑が、もぞ……と身をよじらせた。
「？　って侑ちゃん、どうしたの？」
「な、なんか水着の中がモゾモゾす……ぴゃう！？」
　ビビクンと背を伸ばし、その場で跳び上がる侑！
「く、くすぐったいー！　にゃはっ、にゃははっ！」
「こっ、これはまさか……ドジョウさんの仕業？」
「にゃひっ、うにゃっ、せっ、背中に手が届かないよー……
　桃原ちゃんヘルプードジョウがとれないのー（泣き）」
　豆腐の上でのたうち回る友人のあられもない姿に──さあ、空音の目がキュピーンと光った！
「白いものまみれでぬるぬるで……これは……これは……！」


　＼エロ同人のようだ！／


「う、うおおおおお！　あたしの桃色魂が熱く燃え上がってきたあああああっ！」
「あうー……にょっ！？　桃原ちゃん、どこ触って……！！」
「だいじょうぶ、侑ちゃん！　これは……そう、ドジョウを捕まえるためだから！」
　とか何とか言いながら、侑の水着にワキワキと手を突っ込む空音！
「にゃうっ！　そ、そこはだめぇ！（びくん）」
「ぐっへっへっへ……侑ちゃんのお胸もモミモミしちゃうのだ〜♪」
「にゃっ、やっ、だ……だめぇ！　桃原ちゃんやめてよぉ……（涙目）」
「うへへ、さらに白いアレもいっぱいくっつけて（※豆腐です）……ギャーッ！？」
　そこで後ろ頭にスパコーーンと豆腐が命中し、変態生物が顔面から豆腐の海に突っ伏した。
「こ、こらあ！　そこ、何してるの！　やめなさーい！」
　危ういところで七音侑のピンチを救ったのは、さっきから変態の出現を警戒していた頼もしい部長、佐々 寿美礼だ！
「ち、違うのだ！　あたしはただ、ドジョウを取ってあげようとしてただけだよぅ！」
　豆腐から顔を出し、あばばばと言い訳する空音に、
「もう桃原ちゃんのばかー！　豆腐ぶつけるにー！！」
　ふー、ふーとはだけた胸を片手で押さえながら、赤面涙目で豆腐を投げ付ける侑！
「へへ〜んだ、当たらないよっ（ひょい）」
　空音がプールに潜って避けたその豆腐が、今度はドジョウ掬いに熱中していた李 小麗に命中！
　不意を突かれて一瞬目をパチクリする小麗だったが、
「ん、豆腐で遊んでるのか？
　時間が経つと元の水に戻るし、それもいいかもしれないのだ！」
　とプール表面からおたまで豆腐を掬い、曲芸のように次々それをお手玉しながら周囲に投げ始める。その豆腐玉をぺぺぺぺとぶつけられた寿美礼も、
「あははっ、じゃああたしも！　普段豆腐合戦なんてやったら怒られるけど、
　今回はろっこんの影響から離れれば水に戻るし、ま、いーよね！　え〜〜いっ」
　と喜び勇んで、雪合戦ならぬ豆腐合戦に参戦。その流れ弾の豆腐をとばっちりでべちべち受けながら、プールサイドで憮然顔なのは鏡箕 萌だ。
「まったく、佐々先パイまで……。
　食べ物で遊ぶのは、あたしは良くないと思……ってのわあっ！」
　静観を決め込んでいた萌の顔に、しかし今度は「えーーい☆」と真正面から三希 環が投げ付けた、豆腐大盛り皿がヒット！
「あはは、やったやったぁ！！」
「こっ、この……（ぷるぷる）」
　腹を抱えて大笑いする三希に、ついにぶちキレた萌も豆腐投げに参戦。
　一方、変態スイッチが入っちゃった桃原空音の方は、豆腐プールを潜水していつのまにか、志波 武道の背後にコッソリ忍び寄っている。
（ふへへへへへへへへ！　ああ！　ブドー先輩の魅力的な筋肉とおしり！）
　そのピッチピチのブーメランパンツに、ドジョウをデヤッと突っ込む空音！
「ドジョウに這われてアッーー！　らめぇ！」
　プールから垂直に跳び上がって全校に絶叫する武道、
「うねうね……ふへへ……っくねくね……っ！」
　ドジョウの気持ちになって（？）、その筋肉を思うさま這い回る想像をする変態生物。
「ああっブドー先輩の引き締まった尻！　ピッチピチの水着！
　あひゃひゃ天国天国……腹筋ぬめぬめ！　お胸くねくね！
　ふへへ……んはぁっ！　この肉付き超好み……クンカクンカ！
　ブドー先輩クンカクンカ！　筋肉クローススーハースーハー！
　ぐえっへっへっへっ……あと引き締まったお尻！（※割れているので２回言いました）」


「な、何ですの……この地獄絵図は……」
　そしてプールサイドでは田村マユミが、その惨憺たる光景にドン引きである。視線を転じれば、あいかわらず雨崎 荒太郎は、西野町 かなえの介抱もむなしく、ぴくぴくと気絶したまんまだし。
「こ、この方たちにお願いして、本当に大丈夫だったのでしょうか……？」
　その問いに気休めの返答もできず、恵御納 夏朝は無表情のまま、ぶくぶくとプールに沈んだ……。

　プール復旧作業第１日目は、こうして混沌のうちに終わりを迎えたのであった。


●作業１日目（夜）●

　生徒たちもとうに帰った、その夜のこと。
　深夜の学校に忍び込み、豆腐プールに釣り糸を垂らす生徒がいた。
　プールにドジョウがいると聞き付けやって来た、２年生の亜魚隈 猯利である。こよなく釣りを愛する亜魚隈だ、寝子島に新たな釣り場が出現したと聞けば、腕試しせずにはいられない。
「ちょっとした釣り堀だな」
　プールを見渡しそれだけの感想をぽつりと述べ、あとは黙々と竿を出す。まず亜魚隈が試したのは、基本の浮き釣りだった。水泳部員たちが豆腐を砕いたポイントを狙い、竿のしなりを利用して仕掛けを振り込み。
　エサは、ふだん彼らが食べていたという豆腐から、まず試してみる。
　しかし、これはあまり上手くいかなかった。何しろ豆腐なのだ。針先に付けても、簡単に崩れて針から取れてしまうのである。用意してきた高級豆腐や卵豆腐も試してみるが、豆腐である限りやはりこちらも同様の結果に。
「カゴ釣りの仕掛けを用意してくるべきだったか……？」
　カゴ釣りとは、テンビンと呼ばれる小さなカゴにマキエを入れて、魚をおびき寄せる釣りのことだ。確かにテンビンに豆腐を入れれば、すぐには失くならないかもしれない。
　けれども、そもそも亜魚隈が投げ込むまでもなく、プール全体がドジョウのエサ＝豆腐に変わっているのだ。そこに大海の１滴に等しい豆腐をひとカケ加えたところで、あまりにもエサが豊富なこの状況では、ドジョウに見向きもされないだろう。
　続いて亜魚隈は、エサをミミズに替えたり、ドジョウのいるタナ（遊泳層）を探ろうと、ウキ下の長さを様々に調整したりと試行錯誤してみたものの、ついにアタリは無し。
　白々と夜も明け始めた頃、あきらめて亜魚隈は竿をしまった。
　結果はボウズ（釣果なし）。けれど今回は、神魂絡みの釣り場もドジョウも、フツウではないのだ。亜魚隈とて、一朝一夕で釣れるとは思っていない。
「明日は、毛鉤とワームを試すぞ……」
　その仕掛けをあれこれ考えながら、亜魚隈はゆっくりとまた帰路につくのだった……（あれ？　授業は？）

【１０１匹ドジョーズ回収状況】
七音 侑（水着から回収）……１匹　　
桃原 空音（志波 武道の水着から回収）……１匹　　
（残りあと８０匹！）