異世界転生勇者系　～君のためのクロニクル～｜リアクション

異世界転生勇者系　～君のためのクロニクル～

■花咲け異世界少女譚
　椿美咲紀はバラの花咲く美少女である。
　とっても遠回しな言い方をしたが、要するに二次元大好きっ子である。ちょっとした男性同士の絡みも好きになれるような、池袋系女子である。
　そんなわけで今日は池袋にアニメグッズと同人誌を買いにやってきたわけだが……。
「今日は刀剣モノに鯖モノが盛りだくさんなのです。帰って堪能しちゃい――みゃんぐ！？」
　と、かつて言ったことも無いような悲鳴を上げてトラックにはねられた。

「椿美咲紀さん。あなたは不幸にもトラックにはねられうんぬん」
「略されてます！？　私の出番が省略されてます！？」
「魔王を倒し世界を救うのです。旅勇（たびゆう）！」
「略された！」
　青白い光に包まれて飛ばされた世界は中世ヨーロッパを思わせる古風な世界だった。
　教科書やなんかで知っているヨーロッパと違うところがあるとすれば、トカゲ人間やウシ人間がふつうの人間と剣や魔法で戦っているところである。
　っていうか絶賛戦争中である。
　やばいところに来てしまった。よりによってお取り込み中の場所に。
　幸い転生モノ（厳密には異世界召喚モノ）のセオリーは分かっているので、急にその辺の人に掴みかかって説明しろとか言い出さない、リテラシー豊富な美咲紀である。
　まずは物陰に隠れて様子をうかがったのだが……。
「おや、こんなところに綺麗なお花が」
　道ばたにさくチューリップ。近所の人が植えたものだろうが、あんまり綺麗に整っていたものだから状況をほっぽってまじまじと見てしまった。
　だがそこへ――。
「グワーッ！」
　ブタ人間の巨体が何者かに吹き飛ばされ、チューリップを押し潰されようとしているではないか。
　ハッとした美咲紀はついつい間に割り込み、チューリップを庇ってしまった。
　次の瞬間。
「こ、これは……！」
　チューリップが光り輝き、あどけない少年へと変化した。
　ブタ人間が因縁をつけて襲いかかってくるが、少年は美咲紀を守るように立ち、短剣を構えて戦い始めたではないか。
「これは、私が女神さまから（省略されたけど）授かった力……」
　魔物と戦い始めるチューリップ少年に、美咲紀はグッと拳を握った。
　これは、いける。

　それからかくかくしかじか！
「省略された！？」
　美咲紀がハッとして振り返ると、周りで無数の美男子たちが首を傾げた。
　貴族のようないでたちでレイピアを扱うバラや、和服姿で鉄扇を持ったオヤマ風の桜や、屈強で巨大な全身鎧姿の金木犀、ベルボーイの格好をした糸目でひょうひょうとしたキャラの鈴蘭などなど……気づけば百人単位の軍隊が美咲紀を守っていた。
　植物にヒトの器を与えるという美咲紀の力は、その便利さとは別に植物たちとの深い絆によって多くの困難を乗り越え、今魔王城へ最終決戦に挑むところである。
　お言葉をと百合に言われ、美咲紀はこほんと咳払いした。
「せかいへいわをとりもどしましょう！」
「「応！」」

　かくして美咲紀は魔王との最終決戦に挑み、いくど敗れても新たな花から器を得る華男子たちの力で魔王を打ち倒し、最後には各国と交渉のテーブルにつかせたのだった。
　殺し合いは一瞬で解決するが、話し合いは何十年とかかることがある。しかし解決ができないわけではないのだ。共存共栄は理想だが、不可能な理想ではない。
　美咲紀は最後に華男子たちを各国の目付にしてから、この世界を去ることにした。
　なぜ魔王を殺さなかったのかと誰かが聞いた。
　美咲紀は……。
「魔王を倒して世界を平和に、女神さまはそう言ったのです。私なりの平和を、目指したのですよ」
　美咲紀が去った後、国々は平和への道を歩み始めた。
　勿論万人が幸福になれたわけではないが、戦争を忌避し商業と政治で争った国々はあらゆる技術や文化が発達し、かつてないほど豊かな世界へと変わっていった。
　まるで誰かが植えた種が芽吹き、花開くように。
　そして種を植えた少女の名と像が、今も広場に飾られている。