異世界転生勇者系　～君のためのクロニクル～｜リアクション

異世界転生勇者系　～君のためのクロニクル～

■二人がいれば、世界はいらない
　スローモーションのようだった。
　トラックのナンバープレート。驚きに目を開く運転手。宙を舞う学生鞄と、飛び出した筆箱。遠目に見えた砂場には山とトンネルができ、その先の植木を主婦が犬と散歩している。
　青い空。
　白い雲。
　くらむような太陽の光。
　暗転。
　七峯亨は、死の運命に晒された。

「亨君！　亨君！」
　揺すられる感覚。聞き慣れた声。
　目を開けると、矢萩咲が今にも泣きそうな顔をしてすがりついていた。
「咲……お前も来ちゃったか」
「トラックにはねられたと聞いて、ふらふらと歩いていたら……とにかく、よかった、生きてたのね！」
　次第に頭がハッキリとしてくる。
　そうして、亨は咲の異変に気づいた。
「ここはどこ？　もう寝子島へは帰れないの？　どうしよう……どうしよう、ねえ、どうしよう。姉さんにも妹にももう会えないの？　亨君、どうしたらいいの！？」
　これまでギリギリのバランスで保たれていた咲の人格が、死にかけて異世界へ飛ばされるという経験によって崩れてしまったのだ。
　そして唯一すがることの出来る亨という存在に、その全てを依存してしまっていた。
　だが……いや、だからこそ、亨がするべきことは決まっていた。
「なあ咲」
　頬に手を当て、そして。
「一緒に世界をぶっ壊そう」
　二人は巨人となった。

　亨がこの世界に転生するにあたって授けられた能力は、もともと持っていたろっこん能力の逆。つまり巨大化である。
　五階建ての校舎をひじかけにできるほど巨大な体躯を得た亨は、同じく巨大化した咲と手を取り合って歩いた。
　ただ歩いただけだ。
　だと言うのに田畑は潰れ民家は吹き飛び山は形を変えた。
「大きくなった姿も美しい。派手にやろう、咲。目の前にあるすべてを等しく踏みつぶして、魔王の城も王宮も、なにもかもを焼き払うのさ」
「ハハッ……！」
　咲もまた、転生するにあたって世界を滅ぼしかねない力を授けられていた。
　元々持っていた光線を放つ力を、大きく増大させたものである。
　ゆえに。
「まるで『こびとの国』じゃないか。ひと撫ですれば町なんて、ほら……！」
　拳を握り、空気を薙ぐように払う。
　すると無数の巨大な光線が放たれ、家々を焼き払い泉を干上がらせ森を消した。
　世界を憎むほどに、自身を壊してしまうほどに負の感情が爆発した彼女はいま、世界を焼き払うほどの力に満ちていた。
「行こう亨君。魔王殺しだ。そのついでに……」
　訳も分からず迎撃しようと矢を放ってくる兵隊たちを、足を踏みつけるだけで蹴散らした。
「全部こうだ。亨君と咲の邪魔をするものはすべて敵だ。人も、魔物も、大地も空も、この世界に咲たちを送り込んだ神とやらもッ！」
　叫び。
　咲の光線が空を焼いた。

　世界が平らにならされた。
　国を脅かしていた魔物や魔王軍も、それに対抗するようで醜く権利を奪い合っていた王国も、その下で暮らすあらゆる者どもも。
　等しく潰れ、等しく埋まり、等しく大地の一部となった。
　彼らは咲と亨を『週末の恋人たち』と呼び、あらゆる手を尽くして彼らを排除しようと試みたが、その全てが無意味だった。
　巨大すぎる力に、激しすぎる光に、全てが焼けて、全てが潰れた。
　まさしくそれは世界が崩壊した有様であった。
　陸地にあった全ての動物は死に絶え、滅ぶだろう。
　やがて土に埋まったすべてのものが種の栄養となって大地に芽吹き、地上を植物が埋め尽くすだろう。
　何万年もかけて海洋生物が陸へ上がり、新たな進化を遂げ、いつか何かの文明が生まれるかもしれない。
　だがそんな何千万年も先のことなど、どうでもよかった。
「汗かいたなあ。なあ咲、一緒に風呂にでも入ろうぜ？」
「どこに？　海くらいしかないよ」
　肩をすくめ、そして咲は亨を見つめた。
「咲はずっと亨君と一緒にいるわ。亨君しかいない。けど、ああ……神とやらに復讐はしたいな」
「心配すんな、任せとけ」
　亨は咲を抱きしめた。
　世界から消えていく二人。
　彼らは密かに、神への復讐を企てた。

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あとがき

担当マスター：青空綿飴
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ごきげんよう！　異世界はお楽しみ頂けましたでしょうか。
アニメにしろ小説にしろ、この手のジャンルは事欠かない昨今ですが、皆様のイチオシはなんですか？　私は、なんだか沢山あってコレと選べないのですが……。

それでは、別の世界でお会いしましょう。
またのお越しをお待ちしております！

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