異能バトルは鏡映しのなかで｜リアクション

異能バトルは鏡映しのなかで

■人間の仮面
「状況。現在自分に襲われている」
　路地裏を壁伝いに歩きながら、ヨハン・プレストンは周囲を警戒していた。
　一旦声に出して、この狂ったような状況を自分に理解させる。
　頭で考えただけでは、理知的な彼の思考を乱すばかりだったからだ。
　彼の戦いは、いわば見えない人間とのチェス対局だった。相手がどんな考え方をし、何を目的とし、何を恐れるのか。その三つを把握することで勝利することができた。
　だが今はどうだ。
「相手は自分自身。ならば」
　窓を割る銃撃。屋内からだ。
　ヨハンはそれを飛び退いてかわした。
　無論、人間が銃撃を音だけ聞いてかわすなんてことはできない。隠れた相手をどう狙うか、どういうタイミングでしかけるかを、自分に照らし合わせて考えたのだ。
　だがこの考えかたは危険だ。無限にループする思考に陥ってしまう。
　恐らく相手もそうだろう。
「発見された。迎撃行動に移る」
　コートの内側に仕込んだホルダーからナイフと拳銃を抜く。
　飛び出してきた偽のヨハンもまた、同じ装備で攻撃をしかけてきた。
　銃撃――を予めかがんで回避。
　姿勢を低くしたまま突進。
　ナイフによる刺突を、身をひねってかわす偽ヨハン。
　至近距離で顎に銃を突きつけようとするも、相手の銃をぶつけるようにして射撃ラインがそらされる。と同時に自らの額を狙った銃を、ナイフの柄で殴りつけて反らす。放たれた二人の弾が関係の無い家の瓦を砕いていく。
　ヨハンの使うナイフはいわゆるコンバットナイフ。人の首を一発で断ち切るようなグルカナイフとは違い、急所をひと突きにして静かに殺すためのナイフだ。
　使い方もシチリアンナイフ術のように相手の手首を切りあうというものではなく、相手の攻撃を柔軟にねじって急所に一発差し込むといういわゆる必殺の戦法である。
　ゆえに、巨大な蛇が違いを喰いさんとするかのようにナイフを持った二人の腕がもつれ、ねじれ、柔軟かつ高速に動き回り、互いの急所を狙った。
　手首足首頸動脈。心臓や脇腹、あるいは膝だ。
　まるで機械のように正確に、しかし切実にヨハンの命を狙う。
　が、しかし。
「――」
　一瞬の隙をついて、ヨハンは相手の腕をねじり上げた。
　次の瞬間、銃でもナイフでもなくヨハンの爪先が相手の顔面に叩き込まれたのだ。
　血を吹き、仰向けに倒れる偽ヨハン。
「肯定しよう。お前は私だ」
　一歩でも間違えれば死んでいたかも知れない状況で、ヨハンは冷静にナイフと銃をしまった。
「しかし、ならなぜ僕になろうとした。本当になりたかったのは……『人間』だった筈だろう」
　仮面をはがし、裏返す。
　そこには涙の跡があり、もう一滴、滴が増えた。

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あとがき

担当マスター：青空綿飴
ファンレターはマスターページから！

偽者登場はセオリーといいますか、定番の展開なのですが、本当に自分自身が現われた時にはまた違った面が浮き彫りになるものですね。
同じ技術や同じ武器や、同じ超常的能力を持った相手とぶつかり、勝利するとき、そこには自分でも見えていなかったような根源的な力が働くのでございます。
皆さんの根源に流れる力は、どんなものでしたか？

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