異能バトルは鏡映しのなかで｜リアクション

異能バトルは鏡映しのなかで

■喧嘩の花道
　拳と拳が激突した。
　骨と骨。
　肉と肉。
　男と男が正面から激突し、どちらも引くこと無く停止した。
　拮抗するパワー。
　魚塚源三は歯を食いしばり、もう一人の源三と額をぶつけ合った。
「腕っ節は俺と互角か。けどなあ、それだけじゃあ……俺にはなれねえぜ！」

　遡ること数時間前。
「昼飯にパンだけじゃあな、やっぱ物足りねえ」
　焼きそばコロッケパンとかいうなかなかヤケクソな菓子パンを三つほど平らげつつ、源三はひとりぼやいていた。
　物足りない。
　このところ、何かが物足りない。
　寝子高内にもそれなりにいる気合いの入った奴らとの喧嘩を何日も続けてきたが、どうにもコレという喧嘩に巡り会えていない。
　口偏二つに宣う華と書いて喧嘩。男が男を証明するためにあるような、華々しいその裏舞台。その頂点にも近い場所に自分はいたように思ったが。
　いつのまにか、襲ってくる敵を蹴散らし続けるだけの日々になりかけていた……ように思う。
　ハングリー精神で戦うボクサーが、チャンピオンになった途端に目標を喪ってしまうような、そんな空虚感に呑まれつつあった。
　……いや。いやいや。
「そんなもんは気のせいだ。しっかりしやがれ、俺」
　頬をばしんと叩いて立ち上がる。
　くずかごにゴミを放り込むと、自分の後ろで誰かの足音が止まったことに気がついた。
　遠くはなく、近すぎもしない、しかし腕を伸ばせば届きそうな距離での停止。源三は反射的に振り返り、そして手の平を翳した。
　後頭部を狙った拳だ。
　それを受け止め、そして目を大きく見開いた、
「なんだあんた、その格好にその顔……」
　まるで鏡を見たかのように、自分そっくりの相手が目の前に立っていた。
　蹴りが繰り出され、源三は吹き飛ばされた。駐輪場に並んだ自転車に激突し、自転車をドミノ倒しにしていく。
「問答無用でやるってのか。いいぜ……！」
　源三は口元をぬぐい、そして相手に殴りかかった。

　それから実に数時間。
　ろっこん能力によってすぐさま怪我が再生するせいか、戦いは未だに続いていた。彼の並外れた体力もまた、永久的な激戦状態に拍車をかけている。
「俺とタメの実力で、タメの能力か。マジモンのコピーみたいだな。で？　肝心なものはあんのかよ」
　顔面に繰り出された拳を受け、こちらも相手の顔面に拳を叩き込む。
　踵を踏ん張ってこらえ、血の混じったつばを吐き捨てた。
　胸に拳を当ててから、相手に拳を突き出してみせる。
「ハートとスピリット。日本語でいやあ、心と魂だ！」
　気合いを胸に、根性を燃やし、源三は殴りかかる。
　怪我が治っても痛みを感じないわけじゃない。
　殴っても壊れないものを殴り続けて、心まで無傷ではいられない。
　本来なら既にへし折れていてもいい心の柱は、今も尚ビシッと強く立っていた。
　それゆえに。
「へへ……」
　先に倒れたのは相手のほうだった。
「楽しい勝負だったぜ。大事なことを掴んだみてぇだ」
　折れぬ心と燃える魂。
　源三のもつ、本当の強さである。

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