【サンマさん＆マンボウくんのゆるゆるお魚ランド（１）】

「ゆるゆるお魚ランドへーーーっ」
「ようこそーーーっ！！」
　どっぱーーーん！　バカでっかいクラッカーの鳴らす爆音が鳴り響き、飛び出した色とりどりの紙吹雪や紙テープが勢いよく、ぶわーっとあたりへ降り注ぎます。
　今日の星ヶ丘地区は、賑やかムード一色！　きらきら虹色のネオンがあちこちに瞬き、『お魚ランド』の垂れ幕や横断幕がそこかしこに掲げられ、そして空にはたくさんの、海産物由来のゆるキャラたちがすいすいと気持ち良さそうに泳いでおります。
　曖浜 瑠樹に志波 拓郎、トワ・E・ライトフェロゥは、ふわふわ漂うクラゲや小魚の群れの合間を縫ってすいすいと宙を泳ぎながら、満面の笑みを浮かべました。
「うわぁ……！　かわいいゆるキャラさんたちが、たくさんだぁ♪」
「空を泳ぐ、って……気持ちいい、な……」
　運動が得意な瑠樹は、クロールや平泳ぎですいすいすい。拓郎も、ろっこんを使っての大ジャンプで空には慣れっこなのか、危なげなく空中を泳ぎます。
「あ！　あそこにサンマさんと、マンボウくんもいるデスヨー」
　トワが指差す先には確かに、ぷかぷか浮かぶ寝子島観光大使なふたり。こちらへ手を振る寝子 サンマさんに、浜 マンボウくんの姿もありました。
「今日はボクたちのなかまが、いーっぱい遊びに来てくれたんだよぉー」
「お前たちも、思いっきり楽しんでいってくれよな！」
　と、その時。ぴーん！　トワの脳裏に、ヒラメキが走ります。
「今日はー、April fool！　デスカラー。fool.ウソをついてもいい日らしい、デス？」
「うん、そうだよぉー。ウソついたから、ゆるキャラのみんなもオレたちも、空を泳げるんだねぇ」
　瑠樹の朗らかほわわんな笑みをよそに、なにやらふんすと鼻息荒いトワは、本日最初のウソを軽快に飛ばします。
「ハル―になってsunfishもー、みんなに成長した姿を見せる時が来たと思うマス……『今日のマンボウくんは、きゅーきゅーしない日デス』！　『言葉づかいはgentleに、語尾を伸ばすのをヤメテー、きりっとした顔立ちですらっと立ついけめんマンボウに、変身するのデス』ー！」
　なんてことを試しに言ってみた、その瞬間に。
　ヌーボーっとしたフォルムのマンボウくんが、心なしかほんのちょっぴり流線形に……きりりっ！　つぶらな瞳はかたわらのサンマさんもかくやというなんとも凛々しい光を放ち始め、口元にはニヒルでダンディーな笑み！
「……やあ！　よく来てくれたね、君たち！」
　きらーん！　イケメンマンボウくん、爆誕！
「今日はボクらの仲間たちが、寝子島へ遊びにきてくれたんだ。さあ、みんなキミたちと会いたがっているよ！」
「お、おーい？　俺もいるんだぜぇー？」
　サンマさんを食う勢いで、ぐいぐいと前に出始めたマンボウくん。いつものたどたどしいしゃべりもとてとて遅すぎる歩みも封印して、なんとも男前でありました！
　そんな彼がぴらりとヒレで示したところには、瑠樹や拓郎、トワにも見覚えのあるキャラクターたちがずらずら、ずらりっと並んでおります。
「お久しぶりです、瑠樹さん！　お元気でしたか？」
「あれぇ？　もしかして、羅臼さん？　わぁ、久しぶりだねぇ！」
　瑠樹のところには、羅臼 コンブさんがしゃなりとやってきて、その懐かしい姿には、瑠樹の頬もほっこりと綻びます。
　かんかん、かかこん！　という聞き覚えのある音に、拓郎がもしかしてと思いつつ振り返りますと、
「あ……ラッコくん……！？」
「…………」
　相も変わらず無口な海野 ラッコくんが、じいいいい……っとこちらを覗き込みながら、かんかこん！　貝殻コミュニケーション。彼らは無言のまま、固く再会の握手をかわしました。
「あらあら。トワちゃんは、相変わらずのおてんばね？」
「あっ！　ラティー！」
　そしてトワを優しい声で呼んだのは、シーラカンスの上品なお婆さま、ラティメリア・C・シーラ。かたわらにはもちろん、セバスチャンことキアンコウの執事モンク・フィスさんも控えております。
「さあ！　今日はみんなで、思いっきり楽しもうじゃないか☆」
「「「おーっ♪」」」
　イケメンマンボウくんや、スマホアプリ『サンマさんファミリーズ』の登場キャラクターたちもずらずらやってきて、星ヶ丘は大賑わい！　瑠樹も拓郎もトワも、うきうきとしながらお魚ランドを楽しむのでした。



　三折部 朝衣と真境名 アリサの、こちらは社会人組。お仕事に明け暮れる日頃の忙しさはひとたび忘れてのんびりと空中を漂いながら、世間話に興じていたりします。
「今日は、町役場の用事で星ヶ丘まで来たんだけどね。年度末はとにかくやたらと忙しいし、早出残業休日出勤！　もう殺人的なスケジュールで……今日くらいは楽しんでもいいかな、って」
「へぇ、公務員も大変なのねー。でも分かるなぁ！　あたしも最近務めてるお店の副店長になってから、ホントに毎日が慌ただしくって。気苦労も絶えないしさー」
「分かるわぁー」
　片や朝衣は寝子島町役場の勤務で、片やアリサは水着ガールズバーの副店長さん。なかなかに対照的な職場にお勤めのふたりですけれど……突き詰めるとお仕事などというものは結局、どこでも苦労は付きまとうわけでして。比較的歳が近いこともあって、ふたりはなんとなく意気投合！　たがいに愚痴を漏らし合ったり、前向きに励まし合ったりしておりました。
「よう、お嬢さんたち！　楽しんでるかい～」
「あら、サンマさん。おかげさまで、楽しませてもらってるわ」
　ゆらゆらと泳ぎながらやってきたサンマさんへ、朝衣は明るい表情を返します。
「やあお姉さん、久しぶりだね！」
「マンボウくん、元気そうね……って、なんかキャラ変わってない？」
　そういえば、寝子島へやってきたマンボウくんと初めてお話をしたのは、他ならぬアリサでした。誰かのウソの効能か、今日のマンボウくんはどうやらちょっぴり違っているようですけれど、どこか感慨深いものがあったりもします。
　イケメン化したマンボウくんは、ふたりへきらりんっと白い歯を光らせつつ、
「ははは、男子三日会わざれば……というやつだよ。それより、今から向こうでパレードがあるんだ。いっしょに行かないかい？」
　なんとも爽やかにお誘い。
　顔を見合わせた朝衣とアリサは、もちろんこくりとうなずきました。
「「行くわ！」」
　朝衣はサンマさんの手を、アリサはマンボウくんのヒレをきゅっとつかんで、星ヶ丘でひときわにまばゆい輝きを放つ、ステッラ・デッラ・コリーナのほうへと向かって泳ぎ始めます。
　とにかくもー、慌ただしい日々をお過ごしのふたりのこと。こんな日はゆったり、まったりと休んで楽しまくっちゃ、損！
　ふたりはふわふわ、ゆるキャラたちがのびのびと宙を漂う星ヶ丘の海を、晴れやかな気分ですいすいすい。蹴り出す足にもついつい、力がこもってしまいます。