妄想＜ウソ＞が現実＜ホント＞になるところ。それが、らっかみ！｜リアクション

妄想＜ウソ＞が現実＜ホント＞になるところ。それが、らっかみ！

【小鳥たちは見ていた】

　青空の下に小鳥がさえずるような、清々しい朝のこと。
　御巫時子はとあるアパートの一室のチャイムをぴんぽーんと鳴らし、いつものように返事がないことを確かめると、合い鍵を使って部屋の中へと入ります。
「尚輝先生、おはようございます……」
　几帳面に片づけられた部屋。真っ白なシーツにくるまってすやすやと寝息を立てる、五十嵐尚輝の枕元へそうっと近づくと、時子はすすす。桜色の唇を、彼のそれと近づけていきます。
「起きないと……キス、しちゃいますよ……？」
「んんん……？　あ、おはようございます、時子さん。ふわぁ」
　ふれあう直前に彼が目を覚ましてしまったので、時子はちょっぴり残念。
　けれどこうして毎朝、恋人である尚輝先生を起こしにくることもまた、時子にとってはほかに代えがたい幸福なひと時に違いありません。
「ふふ……おはようございます。朝ごはん、用意しますね」
「いつもありがとうございます、時子さん」
「いいんですよ……だって尚輝さん、放っておいたら食べないから」
「いやぁ、面目ない」
　先生が顔を洗っている間に角食をスライスして焼き、コーヒーを淹れます。ちょっとしたサラダとカットフルーツも用意して、今朝の朝食はちょっぴりボリューミーです。
　今日は、お休みの日。ふたりで公園へデートに出かける予定なのです。
「ああ、これは美味しそうですね。いただきます……」
「尚輝さん……？　寝ぐせ。ついてますよ」
「おっと」
　朝の光を浴びて栗色に照り返る髪へ、時子は優しく手を差し入れました。

　春先の公園は淡い桃色に色づいていて、桜の花びらが舞い散る中をふたり、手をつないでゆっくりと歩きます。
　ちちちち、と小鳥たちがふたりの頭上をくるくる飛んで、時子は微笑ましく目を細めます。
「うーん……！　気持ちがいい陽気ですね。たまにはこうして外に出るのも良いものです」
「もう。尚輝さんはもう少し、頻繁に外に出なきゃ……病気になっちゃいますよ……？」
「はは、そうですね。どうにも出無精で。でも今は、こうして外に連れ出してくれる彼女がいますから」
　彼女。彼の口からそんな言葉が飛び出すたび、時子の胸はいつも、とくんと跳ねてしまいます。
　なんて、嬉しい言葉でしょう。なんて、幸せな気持ちでしょう。
「ふわ……あまりにもいい天気で、なんだか眠くなってしまいますね」
「少し、お昼寝していきましょうか……？」
　やわらかい緑の芝生の上に座り、大きな大きな樹の幹によりかかって、お昼寝タイム。もちろん、手はきゅっと握ったままで。
　そのまましばらく気持ち良くまどろんだ後に、時子がふと目を覚ますと、
「あら……こんにちは、ウグイスさん」
　膝の上にはいつの間にやら、小さな小鳥がちょこん。
　それだけではありません。
「まぁ……スズメさんにヒヨドリさん。メジロさんも……」
　寝ころぶふたりの身体のあちこちで、たくさんの鳥たちがすっかりとくつろいでおりました。
　そして……隣にはまだ静かな寝息を立てている、彼の顔。
「……尚輝さん」
　あまりにも近くて、どきどきとして。今はもう恋人なのに、まるで学校の先生と生徒という間柄だったあの頃のように、時子の胸は早鐘を打つのを止めてはくれません。
「まだ……寝ていますか？」
「んんん……」
　ちちち？　と小首をかしげた小鳥たちに、時子は人差し指を立てて、しぃーっ。
「起きないと……キス。しちゃいます、よ……？」
　寄り添う肩と肩。鳥たちの邪魔をしないように、そうっと、そうっと、顔を近づけて……眠る彼の、唇を。

「……んっ。ああ、すっかり寝入ってしまいましたね……あれ、時子さん。今、何かしましたか？」
「ふふ……さあ、なんでしょう……？」
　時子は自身の唇を指でつうっとなぞり、悪戯っぽく微笑みました。
　全ては彼女と、小鳥たちだけの秘密です。