【お花見】桜の下で待ち合わせ｜リアクション

【お花見】桜の下で待ち合わせ

「信乃さん、あーん」
　背後から抱きかかえた小犬丸信乃の口元へ、鴉取荘助は手ずから三色団子を優しく近づける。
「うむ」
　大仰に頷き、信乃は恭しく差し出された団子を当り前のように口に含んだ。
　凛々しい唇が開き、白い歯が団子を齧り取る。団子を含んだ白い頬がもぐもぐと動き、動く度に口元が幸せそうに緩む。澄んだ空色の瞳がふうわりと細められる。
　自分の手で丸めて蒸しあげた団子をせっせと信乃に食べさせながら、荘助はもぐもぐと動く幼馴染の少年の頬を心ゆくまで見つめて見つめて見つめ倒す。
　手作りおやつ片手に押しかけた幼馴染の部屋で、幼馴染を抱っこしながらおやつを食べさせる。二人きりで寛ぐ、至高の幸福のひととき。
(本当に幸せだ)
　これ以上の幸せがあるだろうか、と思ったところで、
(でも……折角春なんだし)
　ここに来るまでに見た満開の桜が脳裏を掠めた。と同時、桜の木の下ではしゃぎ回る信乃の姿まで想像してしまった。それはどんなに可愛らしいことだろう。
(見たい)
　ついでに幼馴染を撮るためだけに買った一眼レフカメラで、桜の下の幼馴染の写真を山のように撮りたい。
　荘助は腕と膝の中に抱え込んだ信乃の滑らかな頬を熱く見つめる。口の動きが止まった絶妙なタイミングで新しい団子を甲斐甲斐しく口元に運ぶ。そうしながら考えるのは、信乃を桜の下に誘い出す手段。
「ねえ信乃さん、三夜湖でお花見しませんか？」
「あまり花をめでる習慣はないのだが……」
　団子を食べるのに夢中な信乃から予想通りの答えを受け、荘助は微笑む。ここで開示するのはとっておきの情報。忍者に憧れる可愛い可愛い幼馴染が大好きだろう、幻の城の伝説。
「……八夜城か！」
　思った通り、信乃は目を輝かせた。きらきらする幼馴染にうっかり見惚れつつ、荘助はとどめの一言。
「そこに城があったって思いを馳せながらの花見も乙なものだと思いません？」
「成程そういう事ならば行ってもよいぞ！」
　立ち上がろうとする信乃の動きを寸前に読んで、信乃を抱く腕を広げながら、荘助は、はい、ととてもいい返事をする。
「お弁当、作りますね」
「必ずから揚げを入れてくれ！　必ずだぞ！」