【お花見】桜の下で待ち合わせ｜リアクション

【お花見】桜の下で待ち合わせ

　花見日和な寝子島を仕事で駆け回り、仕事用のトラックを会社に戻せた頃には、もうとっぷりと日が暮れていた。
　九夜山を照らす月の光を見上げ、曖浜鴻は筋肉を軋ませて伸びをする。このまま旧市街のアパートに帰ってもいいが、
(少し花見気分を味わいますかねぇ)
　寝子島神社の桜まつり帰りらしい、楽し気に笑いさざめく人々とすれ違いながら、鴻はひとり、旧市街商店街を歩く。
　いつもより遅い時間まで営業している弁当屋で夕飯を買い、少し迷ってつまみになりそうな揚げ物とペットボトル入りのお茶も買い足す。カップ酒に伸びかけた手はなんとか自重した。
(家帰ってからだ)
　二メートル近い筋肉質な男が酒の臭いをさせながら歩いていては、巡回中の警官も職務質問したくなるというもの。
　以前、居酒屋帰りにうっかり受けた職務質問の際にひどく困り果てたことを思い出し、苦笑いの滲みかける口元を掌で覆い隠す。馴染みの弁当屋に手を振り、向かうは会社への行き帰りに通りがかる小さな公園。
　朝、仕事に向かう際に見たときには、公園を囲う桜が満開だった。
　冷たく青い空気を華やがせていた花の色は、白い月の光の下ではどんな色になるのだろう。
　朝よりも冷たい空気の中を歩き、帰路の半ばにある公園の前で足を止める。桜に護られた小さな公園に、人気は少なかった。
　桜の花びらばかりが降り積もったベンチを軽く払い、買い込んできた弁当やつまみを広げる。のんびりと静かに花見がてらの夕飯とする。
　月に照らされた桜は、妖しいほどに美しかった。
(たまにゃこういうのも乙ってもんよ)
　思わずくすり、小さな笑みが零れる。
　家族が居れば、との思いが脳裏をかすめるものの、四十路にさしかかった頃に最早結婚は難しいと判断を下した。己の判断に迷いはない。
「立つ鳥跡を濁さず、ってな」
　食べ終えた使い捨ての弁当箱やパックをレジ袋にまとめ、立ち上がる。ひとりきりの夕飯を彩ってくれた桜を見上げ、一日の終わりに静かな息を吐く。明日は日曜、今日めいっぱい働いたからこそ得た、せっかくの休日。
(桜日和晴れ日和だと良いな)
　帰って風呂に入り、酒を呑みつつ明日に思いを巡らせよう。
(どこでどんなイベントやってるんだろうな？)

　早く起き、日課通りの筋トレをこなした後はランニングがてら九夜山に登ってみてもいいかもしれない。

　明日は、どんな桜が見られるだろう。

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あとがき

担当マスター：阿瀬春
ファンレターはマスターページから！

大変お待たせいたしました。
お花見シナリオ土曜日版、お届けにあがりました！

楽しくて賑やかだったり、しっとり穏やかだったり、ちょっぴり不穏だったり、切なかったり愛しかったり、いろんなお花見を書かせていただくことができました。とても楽しかったです。

ご参加くださいまして、また、お読みくださいまして、ありがとうございました！
少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。そうして、またいつか、お会いできましたら嬉しいです。

さあっ、次は日曜日のお花見ですー！

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