【お花見】桜の下で待ち合わせ｜リアクション

【お花見】桜の下で待ち合わせ

　助手席に置いたシフト表をちらりと見遣る。
　寝子島大橋を経て寝子島街道に至る信号は、一度赤になると青になるまでが長い。
　横目に確かめたシフト表の本日欄に書き込まれた『休』の文字の多さに、曖浜鴻は精悍な頬を僅かに緩めた。日々運転する会社のトラックのハンドルに両手を乗せ、顎を乗せる。窓に映る寝子島は、まるで島全体が花と化したように桜色に溢れている。
(そうだよなぁ、桜まつりとかあるものな)
　折角の春の土曜日、トラックを転がして仕事に励むよりも、家族とお花見した方がいいに違いない。
　同僚たちが休んだ分の仕事が余計に回ってくるのも致し方あるまいと唇を笑ませれば、眠たそうにも見える茶色の瞳の端に四十路なりの柔らかな皺が寄った。
(……その分日曜は休むからな！)
　会社の上司に笑いながら言った言葉をもう一度心中に呟き、本土から運んで来た荷物の運搬先を頭に巡らせる。
　風に乗って流れてきた桜の花びらがひとひら、開け放った窓から飛び込んできた。ブレーキを踏む膝に落ちてきた花びらを眺め、寝子島街道沿いの一角を占める桜並木へと視線を投げる。
　土曜日の昼下がり、車の通りは多くはない。
　それでも通行人が居まいか、信号無視気味に突っ込んで来る車が居まいか、プロドライバーとして周囲に充分気を配りつつ、春爛漫の桜に思わず瞳を細める。
「……寝子島の桜も綺麗だなぁ、本当に」
　呟いたところで、信号がようやく青になった。頑健な筋肉に鎧われた背筋を伸ばし、左右を素早く確認する。
「花見日和でも、行き帰りでも……安全運転しろよー」
　花咲く街道に和んで穏やかな気分のまま、観光客らしい対向車に小さく言葉を掛け、トラックを発進させる。
(俺も気を付けて、次の運び先へ行きますかねぇ！)

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