【修了式】ラストスパートは華やかに｜リアクション

【修了式】ラストスパートは華やかに

一年六組
　他の生徒と同様に青山絢も大掃除に精を出していた。箒を手にしてリズミカルに手を動かす。目はそれとなく教室の様子を見ていた。
　――一年間、共に過ごしてきたこの教室とも、今日でお別れなのね。
　隅の方に溜まっていた埃を箒で掻き出す。僅かな塵も見逃さないという強い意志が感じられた。
　――立つ鳥跡を濁さず、というわけではないけれど、最後の掃除に手は抜けないわ。
　箒で掃きながら教卓の裏に回る。絢は手を止めた。教師と同じ位置に立った。
　――担任の津止先生を初めて見た時の印象はかなり悪かったわ。
　沈鬱とした悪人面で、おまけに口数も少ないし、絶えずバックに葬送曲が流れている感じがするのよね。
　今は少し慣れたのもあって、そこまでの負のイメージはないけれど、取っ付き難いことに変わりはないわ。
　その時、絢の口元が緩む。自身にとっても不意打ちだったのか。表情を戻して掃き掃除を再開した。
　――バレンタインデーの奇妙な遣り取りについ……。
　そのお礼に貰ったキャンディーの愛らしさにもくすりとなったわ。
　知らずに口元に笑みが浮かぶ。
　塵一つ落ちていない。満足した表情で絢は教室を出ていった。

　着いた先は演劇部であった。他の部員達と手分けして掃除に励んだ。
　絢はハンドタオルで顔の汗を拭き取る。首筋にも押し当てた。部室と同じようにすっきりした状態となった。
　集まった部員で発声練習を行う。額にじんわりと汗が浮き出るくらいまで続けられた。
　その後は台本を手にして演技の練習に打ち込んだ。
　絢は高貴な女性が憂いを秘めた表情で独白する場面を担当した。

「彼が私に注ぐ愛情は形だけのものでした。彼が本当に愛していたのは私が父から受け継いだ二ヘクタールの牧草地だったのです」
　制服姿が気にならないくらいの静かな熱演であった。しかし、本人は気に入らなかったのか。闘志を秘めた目で先輩に訴える。
「今の場面、もう一度、いいですか」
「あなたが納得するまで付き合うわ」
「ありがとうございます」
　部室での演技は熱を帯びていった。