【修了式】ラストスパートは華やかに｜リアクション

【修了式】ラストスパートは華やかに

一年五組
　見違える程、綺麗になった教室で数人が集まって止めどない会話を続けている。
　その中に佐藤英二の姿があった。ごく普通に解け込んでいた。女子に振られた話に控え目に答える。
「成績は普通かな。物理が苦手で心配したんだけど、通知表の数字にあまり影響が出てなくて助かったよ」
「そうなんだー。あたしはほとんど全滅だよ。英語が最悪で遠い目になってたね、絶対に」
「まあ、もう終わったことだし。二年になって、また頑張ればいいだろ」
　机の背凭れに顎を乗せて話していた男子が小さく欠伸をした。目にした英二はやんわりと声を掛けた。
「眠そうだね。徹夜でゲームでもしたのかな」
「ゲームは嫌いじゃないけど、今回は違うぞ。最近、深夜アニメが面白くてさ。サイコ系のヤツなんだけど、佐藤は興味ある？」
「僕もアニメは嫌いじゃないよ。その中でもロボット物が好きだね」
「じゃあ、俺の好きなジャンルとちょっと違うかもな。『猫師』ってタイトルなんだけど、知ってるか？」
　すでに眠気はなくなったのか。男子は反応を期待した顔で見上げてきた。
「アニメは観てないけど、雑誌では読んだことがあるよ。派手な絵ではないけど味があって、猫に絡んだ霊的な物を主人公が解決する話だね」
「そうそう、それだよ。あれは漫画もいいんだけど、アニメの絵と音楽がすげぇマッチしていて、俺的にはアニメが超絶オススメだぜ」
　前のめりになって熱く語る。英二は真剣に聞いていた。
「今度、観てみるよ。超絶オススメみたいだから」
「あ、そろそろ部活だ。私、抜けるね」
「おう、がんばってな」
　一人の女子が鞄を肩に引っ掛けて教室を足早に出ていった。
「佐藤君って、なんの部活してるの？　見た目は文化系なんだけど」
　三つ編みの髪を弄りながら別の女子が聞いてきた。少し困ったような笑みで英二は答えた。
「実は部活動は何もしてないんだ。一つに決められなくて、あっという間に一年が過ぎてしまったよ」
「へー、そうなんだ。実は私も帰宅部なんだよね。バイトが忙しくて」
「アルバイトか。世話好きに思えるから接客業……ウエイトレスとか」
「すごい、大当たり。意外と時給の良いファミレスで、長く続いているんだよね」
　会話は延々と続くように思われた。楽しい内容に話は弾むものの、皆の表情には一抹の悲しさも見て取れた。
　――皆も僕と同じで、終わらせたくないんだね。
　一年五組のクラスメイトでいられるのも、あと少し。でも、いつまでも引き延ばすことはできない。
　英二は自然な笑みで皆に言った。

「そろそろ帰ろうか？」
「そうだな」
「これで終わりなんだね」
　しんみりとした声で各々の席に戻り、学生鞄を手にした。
「みんなー、暗いよー。顔が暗くて、なんかおもしろくないよ！　落ち込んだ気持ちは、ばっひゅーんであげなくちゃ！」
　笑顔で走り回っていた野々ののこが両手を広げて言った。その言動に呆れた者もいたが、大半は朗らかに笑っていた。
　英二は珍しく、前に出た。目立つ状態で皆に言った。
「時間があったらだけど、カラオケでも行かないか」
「はい、はーい！」
　ののこが飛び跳ねながら手を挙げた。英二を先生に見立てているらしい。
「えっと、では野々さん」
「楽しそうだから私は行くよ！」
「では、野々さんは決定ということで。皆はどうかな」
「積極的な佐藤君って珍しいから私は参加で」
「俺はアニソンで攻めるんでよろしく！」
　話を耳にした数人の男女が集まってきた。
「皆、僕の提案に乗ってくれてありがとう」
「俺達、クラスメイトだろ？」
「良い思い出になればいいね」
　温かい言葉の数々に英二は柔らかい笑みで頷いた。