【修了式】ラストスパートは華やかに｜リアクション

【修了式】ラストスパートは華やかに

一年七組
　教室の机は全て後ろに運ばれた。広々とした中を夢宮瑠奈が堂々と歩く。手には絞った形の雑巾を持っていた。
　くるりと教卓の方に背を向けてしゃがむ。雑巾を広げて折り畳み、床に置いた。鼻息の荒い様子で両手を乗せる。
　目にした女子の一人が不思議そうな顔で言った。
「普通は端から拭いていくんじゃないの？」
「そうかもしれないけど、なんか気分は真ん中なんだよね！」
　普段とは違って妙にテンションが高い。修了式という特別な日が影響しているのだろうか。瑠奈は腰を上げた。クラウチングスタートの姿勢となり、ゴー、と心の中で叫んで走り出す。
　机にぶつかる寸前で止まる。息を吐いて向きを変えた。雑巾を少しずらして二度目のスタートを切る。
　――爽快だね！　あ、でもこの格好だと後ろから見えちゃうかも！
　教室の中程で両膝を突いて後ろを振り返る。机の上を雑巾で拭いていた女子と目が合った。
「手伝おうか？」
「あ、そういうことじゃなくて、うん、何でもないよ。なんかテンションがヘンになっちゃって」
　はにかむような笑みで雑巾掛けに戻る。
　――男子だったら、ラブコメとかでよくある『ちょっとダンシィ～』ができたんだけど。
　もう、今日のあたしはなんかヘンだよねぇ。
　雑巾掛けを二往復したところで数人の男子が加わった。大変そうじゃん、という軽い乗りで始まり、最後は競い合うようにしてこなしていく。
　――この場合は使えないよねぇ、ちょっとダンシィ～。
　口をもごもごさせながら瑠奈は雑巾掛けを終えた。
　机が男子の手で元の位置に運ばれる。大掃除の終わりが見えてきた。
　瑠奈は焦るような表情で見ていた。
　その時、黒板に目がいった。新品のような状態になっていた。
　――なんだろう。むずむずする。この感情を、ぶつけたい！
　黒板に駆け寄った瑠奈はチョークを引っ掴む。

『おつかれさま！』
　中央で叫ぶ大きさで書き殴る。
「折角、綺麗にしたのに！」
　不貞腐れたようにいう女子に、いいじゃん、と男子が声を被せた。
「……なんか、青春だよね」
　別の女子が泣きそうな顔で口にした。
　自らの声の大きさを目の当たりにして瑠奈は胸中で叫んだ。
　――あたしはまだ、終わりにしたくないんだ！
　このクラスの皆と、いつまでもバカやってたいんだ！
　涙は見せない。瑠奈は笑顔で最後を迎えた。