年の差を埋めることができたら何かが変わると思ってた。｜リアクション

年の差を埋めることができたら何かが変わると思ってた。

「え！　年埋めのロケ寝子島でやってるん！？」

　マリベル・ロイスはふと何気なくニャンスタグニャムを開いた途端、悲鳴にも似た嬌声を上げた。

「そりゃ見に行かなあかんで～」

　楽器店を覗こうとシーサイドタウン駅前にやってきていたことも忘れ、マリベルは回れ右で駅へ向かって歩き出す。もちろん旧市街へ行くためだ。
　膝がチラリと見えるくらいの、白いチュールスカートがひらりと気ままに翻る。
　『Hola』という文字がプリントされたシンプルな白シャツは誇らしげに柔らかな向かい風を受けていた。
　マリベルは先程コンビニで購入した紙パックにストローを差し、ちゅーちゅーと吸い上げながら、あるき続けた。
　その時、ふと視界に入ったのは大学生風の青年。知り合いでもない青年をまじまじと見続けることもなく、マリベルは駅へ向かった。

（さっきからなんか視線がこっちに向いてるな……？　ロケはここじゃなくて、旧市街の方やのに）

　不思議に思って、回りを探るように視線を巡らせる。そうして目に飛び込んできたのはお店のディスプレイに薄っすらと映るマリベルとよく似た格好をした、けれどマリベルよりもずっと大人の女性だった。
　肩甲骨が隠れる程度まで伸びた柔らかそうな髪はマリベルと同じ金色。
　瞳の色も同じだが、わずかに身長と、それから大きく胸元がマリベルとは違っていた。

（……ン？　なんか見覚えがあるような）

　そうして思案し、マリベルはあの日に思い至った。

「……またこの夢かー！　……ってことは年埋めの撮影も夢……」

　マリベルはディスプレイにもたれ掛かるように、がっくりと項垂れた。
　そうすることで、意図せずマリベルの目にはディスプレイに写り込んだ自身の谷間が飛び込んでくる。

（とりあえずこの高校生なファッションとこの体は……）

　改めて自分の姿を確認し、マリベルは頬が熱くなっていくのを自覚する。
　体が、特に胸が変化したことで『Hola』の文字はギリギリまで引き伸ばされ、不細工に伸びていた。
　丸首のごく普通のTシャツのはずが、谷間を強調するように引っ張られているし、お腹の辺りも丈が縮んでスースーする。いや、正確には服が縮んだわけではないのだが。
　スカートもお尻に肉が付いたのか、妙なラインが浮かび上がっていて（ついでに短くなっていて）マリベルは周りの視線の意味をようやく理解したのだった。

（つりあわへん、家へ退却や）

　そう決意した途端、マリベルはすぐさま駆け出した。

　自宅に戻ったマリベルはすぐさま自室へ向かい、服をあさり始める。
　しかし探せども探せども見つかるのは高校生なファッションばかりで、なんて都合の悪い夢なのだと臍を噛んだ。
　唯一サイズ感が合うのは、フラメンコの衣装くらいだった。

（ママンが家からあふれて困ってるっていうてたけど……）

　確かにフラメンコの衣装だけならばよりどりみどりだった。
　ワンピースタイプは勿論、ブラウス・ボレロの色形様々。スカート――ファルダと呼ばれるそれも、裾を長く引き摺るような華やかなバタデコーラも多種多様。

（しかし夢とはいえこれ着たまま一日中家でひきこもるのも虚しいな……）

　着せ替えだけで楽しめるほど、マリベルはこの衣装に物珍しさは感じない。
　お隣の国みたいにサウダージなんて小洒落た言葉では誤魔化せやしなかった。

（せや！　折角やしどっかのフラメンコショーやってるお店に突撃して一曲踊ってみるのはどやろ？）

　フラメンコの腕はママン仕込み。プロとはいかずとも、そこら辺の趣味を楽しむ主婦よりは上手い。

（面白い夢にしたるで～！）

　衣装選びにも熱が入る。マリベルの夢はまだ始まったばかりだった。

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