異世界からの迷い人｜リアクション

異世界からの迷い人

　シーサイドタウンの中程、スパッド・エイグルが目を見開いた状態で立っていた。色黒で大柄。迷彩服を着ていた。歩道の中央にいるので人々は身体を斜めにして通り過ぎていく。
　――なんだ、ここは？　人が多いし、小さいな。
　通行の邪魔になっていることに気付いて、取り敢えず歩くことにした。
　足を動かした状態で自身の手を見る。
　――これが俺の手か？　毛がないが。
　残りの手で顔を摩る。首にも触れた。
　――どこにも毛がねぇぞ。どうなってんだ。光の玉を蹴飛ばしたせいなのか？
　進行方向の信号が赤に変わった。人々が立ち止まるのを見てスパッドもそれに倣い、怪しまれない程度で周囲を窺う。
　横手のショーウインドウに自身の姿が映っていた。呆然と見つめた。
　――まるで旅人じゃねぇか。
　歩道の信号が青に変わる。人々が一斉に飛び出した。押し出されるようにスパッドも歩き始める。徐々に速度が増した。
　――こんな事態も初めてじゃない。星幽塔の時もそうだ。突然、飛ばされて戸惑ったが、どうにかなった。
　人々が進む方向に進路を決める。
　――情報収集するなら、人は多い方がいい。
　どこか表情は楽しげであった。

　赤銅の髪を弾ませてレヴィ・カステラノスが颯爽と歩く。エンジニアブーツが小気味よい音を立てた。
「熱くなってきたぜ」
　着ていたフライトスーツのチャックを腰まで引き下ろす。両腕を引き抜いて袖の部分を腰に巻いて結んだ。白いタンクトップ姿に周囲の男性は目のやり場に困った。
「こっちに行くか」
　本人は気にした素振りを見せず、寝子島シーサイドタウン駅へと歩いていった。

「水場があるのか？」
　耳に意識を傾ける。目に付いた噴水に足早に近づいた。しゃがんで鼻を近づける。
「湧き水か、これ……においが、独特だな」
　片手で水を掬い上げる。口元まで運んで引っくり返した。
「こりゃ、飲めそうにねえな」
　濡れた手を振って立ち上がる。
　――おかしなことばかりだ。服はすっかり変わって、ここがどこかもわからねぇときたもんだ。
　ポケットに手を突っ込んだ。すぐに取り出す。手には革の財布が握られていた。
「これ、なんだろな。コインと紙が入ってんだけど」
　元に戻して周辺を眺める。横手から現れた大柄な人物に目がいく。
　レヴィは走って声を掛けた。
「そこのあんた、ちょっと聞いてもいいか」
「俺に言っているのか？」
　スパッドは少し緊張した面持ちで聞き返した。
「そうだよ。あー、あたしはさ、ちょっと遠いトコロから来たんだ。ちょいとここいらの事を教えちゃくれねえかな」
「俺も同じで、こっちが聞きたいくらいだ。ここはどこなんだ、ってな」
　二人は顔を見合わせた。数秒の間を空けて、あんたもか、とほぼ同時に声を上げた。
「あたしはレヴィ。光の玉のせいで臨時休業に追い込まれ、バカンスを満喫中さね。そっちはどうなんだ？」
「俺はスパッドだ。そちらと状況は同じだな」
　レヴィは苦笑いで頭を掻いた。
「あんたはこれからどこに向かうつもりなんだ？」
「俺は人の多いところで情報を仕入れるつもりだ」
「ふーん、まめだねぇ。あたしは適当に楽しむさ」
　レヴィは九夜山の見える方向に歩き出した。スパッドは人の流れを見て逆の方へと向かう。