かくて世界は浮遊する｜リアクション

かくて世界は浮遊する

それは造られた世界という場所

　そこへ回転状態の枝から手を離すことでぶっ飛んできた環が下心にクロスチョップで衝突する。正しく、フライングクロスチョップであった。
　「ゴフッ！　いやしかし、これはご褒美ですね！　女の子にぶつかってもらえるなんてなかなか無い！」
　トラブルすらもエロに変換する下心も下心である。きっちりと環のスカートとスパッツもカメラに収めつつも、衝突の影響で何処かへと飛ばされていく。
　「んふふー！　下はスパッツだから恥ずかしくないのだよーん！　んじゃまったにー！」
　と、近くにあった木切れを環は回転させてまたぶっ飛んでいく、上空へ。
　「……何とかしないとな」
　暦は頭を抱える。

　「とりあえず、スカートを結べば？」
　一部始終を呆れたように見ていた逆巻天野が声をかける。
　「なるほど、そうだな」
　暦は頷いて、見た目やスカートのシワを諦め、スカートを端で結ぶ。太股の露出は増え、脚も動かしづらくはなるが、パンツを見られるよりは彼女にとってはマシだった。
　「で、島を浮かせた犯人はわかるのかい？」
　と、近くを浮いている猫、テオドロス・バルツァに天野は訊ねる。
　（自分で調べるんだな）
　テオはそう応えるとそっぽを向く。
　「答えは期待してなかったけどね。昔の落神伝説も何か知ってるよね？　……前にも同じような事が起きたのかい？」
　天野はテオの反応を気にせずにもう一度聞く。
　（……）
　何の返事もしないテオ。
　「ふむ。まずは地面に降りないことには始まらないか」
　テオから情報が得られないことを確認した天野は地面に降りる手段を考える。
　「手がかりも情報も少ないからな」
　と、暦が相槌を打つ。
　「ああ、そうだ……ね？」
　天野が暦に向き直り頷こうとすると、暦の姿がそこから消えていた。

　「こ、こらー！？　ありがたいけどそんなに抱きしめないで！？」
　暦の声は天野の下方より響く。天野が下を見やると地表にて暦を抱きしめる薫子がいた。
　「ぎゅーっ。やはは、駄賃みたいなもんじゃ、よいではないかー」
　楽しそうな薫子。どうやら暦を薫子が『お取り寄せ』したらしかった。
　「は、いかんいかん。目的を忘れるところじゃった」
　ひとしきり堪能した薫子は暦を解放する。解放された暦は再度浮遊しそうになるも、慌てて地面に埋没した岩にしがみつく。
　「この姿勢はこの姿勢で色々不味い気がするが、とりあえずの避難ということにして、だ」
　岩に抱きつくワンピースの少女という不名誉な状態を忘れたことにして暦は薫子を見る。
　薫子は再び空（というかスカートの女子たち）を見上げながらろっこんを発動させようとしていた。
　「なんで浮いとるか心当たりある人はおらんかー？」
　と、次に『お取り寄せ』したのは長い黒髪が特徴的な制服姿の女子生徒……ではなく男の娘八雲陵平だった。
　「わ、わ！？　北美浜先輩！？」
　空中から突然地上へと瞬間移動させられた陵平は驚きの声を上げる。その声も高く、まさしく女子のようである。
　「っと、おなごだったらよかったのにのう」
　さすがの薫子も抱きしめるのは自重して、陵平の頭を撫でるに留める。
　（上條さんみたいに抱きしめてくれてもよかったんですけど、まぁこれはこれで、北美浜先輩いい匂いがします）
　陵平は心の中でそう呟く。
　「さっき逆巻が縄付きの岩が浮いているのを見たと言っていた。関係があるかもしれない」
　暦は恥ずかしい態勢からなんとか改善に努めつつ、薫子と陵平に相談する。
　「ふぅむ、要石というもんかいのう。で、逆巻はどこに居るんかの」
　真面目に考え込むようにしつつも薫子は三度空を見上げる。視線は相変わらずだが天野を探すつもりはあるらしかった。

　「僕はここだよ」
　そんな声が薫子の後ろで響き、袈裟姿の天野が着地をする。彼は浮遊物を蹴った反動で地面まで降りてきたようだ。
　「色々確認したいことが多いけど、とりあえず携帯が繋がるか試してみようか」
　そう言って天野は携帯でテオの世界に来ている可能性がある人物に連絡を試み始めた。

このページにイラストを設定する