キョンシーにご用心｜リアクション

キョンシーにご用心

【ざ☆熊殺し！　～称号の行方～】

　墓地から離れて、どこへ向かおうかと話し合う士と優の前に、勧誘員がやってきた。
「猫鳴館の寮生は、一緒に寮に帰るのだ～」
　キョンシーになった後木真央が、一緒にキョンシーになろうと誘いをかけてきたのである。
　しかしその真央も、目の前に立つのが士だと気づくなり、寝ぼけまなこのままで襲いかかった。
「シャーーーッ！　士ちゃん、猫鳴館ざ☆熊殺し！　の称号、くれ……なのだああ！！」
　どうやら真央は、刷り込みレベルで士の持つ名声をうらやんでいたらしい。
「うわっ、後木、お前……」
「真央ちゃんも、熊鍋の達人……に、なり……たい……！」

　食のチャレンジャーとしての飽くなき追求は、キョンシーになったくらいですたれるものではない。
　帰巣本能を凌駕する猛攻撃を、真央はかけた。
「落ち着け、熊が欲しいなら山に行け！」
　歯をむいて飛びかかってくる真央に、慌てて札を向ける士だが、情熱あふれるどすこいアタックの前には太刀打ちできない。
　あえなく突撃を許した士は、ぼんやりとした眼差しを真央に向けて、同じように両腕を前に突き出した。

「わーっ！　邪衣くんがキョンシーになっちゃったよー！」
　満足したらしい真央が、木立の奥へと姿を消す。
　てっきり、士も真央の後を追い、猫鳴館に向かうのかと思われたのだが、どうも様子がおかしい。
「……邪衣くん？」
　キョンシーになっているのは間違いないようなのだが、目を半開きにしたまま、士はぐるぐるとその場で円を描くように回る。

「寮のある方向がわからないんじゃないか」
　優の背後から声がした。
　振り向くと、修がカメラを回しながら立っている。
「あっ、そうかぁ！」
　優も納得顔で手を叩いた。
「邪衣くんだったら、帰り道がわからなくても仕方ないよねぇ！」
　しばらくそのまま、雑談しながら、ぐるぐる回る士を見ていた。

「……何をやってるんだ」
　真央の雄叫びを聞きつけて、御剣刀もやってきた。
　予想に反した、緊迫感に欠ける雰囲気に呆れ顔だ。
「邪衣がキョンシーになっているんだ」
「それは見ればわかる」
　刀はろっこん『加速』を発動させた。
　一気に周囲が速度を落としたように見える中、刀は飛び跳ねた士の背後から、木刀で踵を払った。
　仰向けに倒れた士の額に、札が貼られる。
「……はっ」
　目を覚ました士は起き上がり、額の札を押さえて、こう語った。
「世の中、どこで何に遭遇するか、わからないものだな……」
　油断は禁物。そう胸に刻み込んだ。

【ぬいぐるみがつなぐ絆】

「フハッ、フハッ、フハハハハ！」
　夜の桜台に、笑い声がひびく。
　ろれつの回りきらない笑い声が気になって、声の主を探していた笹暮真秋は、夢のような光景を目撃することとなった。

「……ぬいぐるみが、あんなにたくさん」
　鈴木修一郎の率いるぬいぐるみの一団に、心惹かれる。
　肩の上に乗せていた猫のぬいぐるみを抱きしめて、真秋は夜道を行進するぬいぐるみさんたちをうっとり見つめた。
　修一郎に対して、途方もない親近感を覚える。
「……キョンシーになっているのは、真ん中の人だよね」
　同じ桜花寮の学生だ。零にゆずってもらった札もある。

　真秋は、こめかみに指をあてて、ろっこん『マリオネット』を発動させた。
「……頼んだよ」
　猫のぬいぐるみに札を持たせて、念力で動かし、修一郎の元へ向かわせる。
　ぺたん！
　札は無事に修一郎の額にくっつき、彼は理性を取り戻した。
「ハハ、ハ……、む！？」
　腕を下ろして立ち止まる修一郎のまわりを、ぬいぐるみが取り囲む。
　もう遊びはおしまい？　そんな心の声さえ聞こえてきそうだ。

「ここはどこだね」
　とまどう修一郎だったが、真秋の抱えるぬいぐるみを見て、「おお」と叫んだ。
「よかったな、田中！　友達がいるぞ！」
　田中は、修一郎の持つ猫のぬいぐるみの名だ。
　見つめ合う真秋と修一郎は、互いの持つぬいぐるみが手縫いの品であることを見てとった。
「クククッ……、なかなかに良い仕事をするではないか」
「……ぬいぐるみ、たくさんでかわいいね」
「フハハ！　そうだろう！　私の自慢の友人たちだ！」
　二人の距離が、どちらからともなく近づいた。

「友情。ぬいぐるみ。……かわいい」
　その様子を少し離れたところで見守っていた、旅鴉月詠の手が動く。
　愛用のスケッチブックに、月の下で踊るぬいぐるみと、ぬいぐるみを愛でる二人の交流が描かれた。

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キョンシーにご用心

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