丸い月が、整然と並ぶ墓石を照らしていた。
満月の夜に、墓地をさまよう人影がひとつ。
足の運びがやけに規則正しいその個体は、両腕を前に突きだし、ぴんと伸びた背筋のまま直進していく。
土に汚れた見慣れない民族衣装を身にまとうソレは、呼吸をしてはいなかった。
命を失って、どのくらいたつのかもわからない。
いつからか、ここ桜台墓地の土の下をねぐらと定めていたキョンシーが、月の光に導かれて地上へと姿を現していた。
サクッ、サクッ、サクッ、サクッ――――。
足をそろえてキョンシーは進む。
表情が動くこともない。
瞳に何かが映っているのかもわからない。
ドゴッ!
キョンシーの身体にぶつかった墓石が欠けた。
どれほど身体が硬いのか。
なんらかのダメージを負ったそぶりもなく、キョンシーは墓地の外れへやってきた。
――ちょうどそこへ、間の悪いことに一人の男がやってくる。
月を見ながら先祖と酒を酌み交わそうとやってきたこの男。
墓地に足を踏み入れたとたんにキョンシーと出くわして、盛大な悲鳴をあげた。
突っ込んでくるキョンシーを避けようとして、腕にうっかり触れてしまったのが運の尽き。
冷たい。
そう感じる間もなく、思考はにぶり、手が身体とは垂直に、前へと伸びる。
(――そうだ、家に帰らなければ)
ぴょん、と、男が両足をそろえたまま、前方に飛び跳ねた。
男は気づかない。
自分がまるでキョンシーのように、こわばった身体で飛び跳ねていることを。
正常な判断力を失った現状では、気づくことすら不可能だろう。
男は、自宅のある桜台へ向かって、ゆっくりと移動を始めた。
(家は向こうだ。帰らなければ)
もうろうとした頭で、ただひとつ、そればかりが意識を占めた。
こんにちは。
皆さま、キョンシーはお好きでしょうか。
数あるアンデッドの中でも、格好良くもなければ、とりたててグロくもない、
ちょっとコミカルな部分もあるモンスターです。
実は桜台墓地(H-7)には、大陸渡来のキョンシーが一体眠っています。
普段は退屈しながら惰眠をむさぼっているばかりのキョンシーも、
満月の夜ともなれば、たまには活動してみてもいいかな?
そんな気分になった様子。
地上にピョコンと出てきました。
しかし困ったことに、このキョンシー。
仮に、オリジナルの個体という意味をかねて、『零号』と呼びます。
零号は、疑似キョンシーを増殖させるろっこんを持っています。
そこでご注意。
・キョンシーに触れた人間は、疑似キョンシーと化す。
・疑似キョンシーに触れた人間も、疑似キョンシーと化す。
・零号も疑似キョンシーも、身体が硬い。
・それはもう、びっくりするくらい硬い。
・進行方向にある物を壊してしまうくらい硬い。
・キョンシーになると、直立した状態でジャンプして進む。
・実はめちゃくちゃ速く動くこともできる。
・疑似キョンシーは、帰巣本能に動かされている。
・意思の疎通は、たぶん無理。
そんなキョンシーが野に放たれてしまったわけです。
街中に入り込んでしまうと、ぐんぐん増殖していきます。
まさにこれって、ホラーです。
今回は、このキョンシーたちと追いつ追われつする話になります。
増殖する疑似キョンシーが住宅街へなだれこんで来るのを阻止しつつ、
オリジナルの零号をねぐらへ追い返してください。
退治するには、キョンシーといえば、やはりアレ。
そうです。
おでこにお札です。
疑似キョンシーも正気に戻るマジックアイテム。
零号退治にも欠かせません。
上手く貼れるといいですね。
今回、ジャンルはコメディです。
誰もがキョンシーになる可能性を秘めています。
いえ、むしろチャンスです。
キョンシーになれる圧倒的チャンスです。
キョンシーになりたい人、
キョンシーを退治したい人、
キョンシーなんて不吉なものには関わらず、深夜の街を徘徊したいだけの人も、
アクションには、行動したい場所が記載してあると有り難いです。
また、疑似キョンシーは帰巣本能を有しているため、
寮住まいでない方はアクションまたはプロフィールの自由設定欄に、
お住まいがどの辺りなのかを一言添えていただきたいと思います。
キョンシーは墓地からシーサイドタウンにかけて、じわじわ侵食していきます。
怪我と物損には、じゅうぶんに気をつけましょうね。