【星幽塔】第十階層　本の迷宮｜リアクション

【星幽塔】第十階層　本の迷宮

☆読書する少女たち

　本の迷宮１階では、三人が読書に勤しんでいた。
　桜、梢、綾花……奇しくも皆植物に関する名を持つ少女たちだった。
「あっ、猫の本！」
　目を輝かせて綾花は、猫の絵が描かれた本に飛びついた。
　書架が動いても気にせずに、本を読む事、知識を得ることに集中している。
　黒い影についての本は見つからないが、第一階層のサジタリオ城下町を紹介した本にはマップも載っていた。
　その本に加えて、猫の本も借りることになりそうだ。
　ほとんどの本は読める文字で書かれていたが、たまに分からない文字や記号も出てきた。
　綾花はろっこん『読破』を使ってわからない文字を調べ読み進める。
　そして綾花の右手には指輪が輝いていた。
　幻視の光の力を持つ指輪だ。
　古そうな本があったら、この力が役に立つかもしれない。

『星幽塔（アストラルタワー）は星の力によって空に浮かぶ。
　塔の内部は、複数の階層からできている。
　各階層は、完全に独立した時空による世界で、それぞれに天地があり、星幽塔と呼応した者のみ、自由に行き来することができる……』
　気がつくと、教科書を暗記するような読み方になっていて、桜は苦笑した。
（もう、受験は終わったんだから好きなように読んでいいんだっけ）
「伝説の竜が守る『至高の宝』」
　つぶやくと、新たに書架が現れた。
　わくわくしながら本を取り出し読みふける。
　しかし、しばらくしてため息をついた。
「なによ……肝心なことが書いてないじゃない」
　長い前置きが続き、書いてあるのは結局雲をつかむようなとりとめのない空想話だったり。
　本からピンポイントに情報を得るのはなかなか難しい。
　まして最上階の宝のこととなると伝承の域を出ないようだ。
「地下の本なら、もっと情報があるのかしら？」
　だが桜は、次の本で気になる文章を見つけた。
『ある階層の龍は地震を起こす力がある。地震が続くなどの原因でかつて他の階層が抜け落ちたこともあったと言われている』
「えっ、それって……」
　足元が抜け、体が空中に投げ出されるイメージが浮かんで、桜は息を呑んだ。

「なるほど……十階層の森にはいろいろ薬草があるんですね」
　薬剤・調合や植生と地形の本を読んでいた梢のほうは順調に収穫を得ていた。
　なかでも薬草図鑑は便利で、さっそく借りることにした。
（機会があれば取りに行きたいですし、もっと効率よく素材集められるでしょーし）
「第四階層には手荒れに効く薬草、っと」
　表紙の作者名もしっかりメモを取る。
（作者は要チェックです。もしかしたら、生きててお話が聞けるかもしれませんし！）
「カドュケウス？　……どこかで聞きましたっけ？」
　梢は首をひねる。
『作：カドュケウス　記：シドニウム』と作者の名前が書かれていた。
　
　アストライアは、少し離れたところで書類の整理や本の修繕作業をしていた。
　けれど心ここにあらざるという様子で、表情には憂いがある。
　そんなアストライアに気づいた綾花は、安心させるように優しく、そっと励ましの声をかけた。
「心配ですか？　皆さんに任せておいたら大丈夫です」　
「……ありがとうございます。そうですよね」
　アストライアは綾花に笑顔を向けた。
「黒い影に狙われる理由は何なのでしょう？」
　綾花の疑問に、アストライアは首を振る。
「さあ……でも、もしかすると」
「何ですか」
「いえ、推測ですけど……ここの本に知られたくないことが書かれているのでしょうか」