【星幽塔】第十階層　本の迷宮｜リアクション

【星幽塔】第十階層　本の迷宮

★地下四階

　アルレッテの足元に黒い影が迫っていた。
「戦闘は専門外だからね、近寄らないでくれるかな？」
　杖から湧き上がった魔風が、影を薙ぎ払う。
「くそっ、後で矢を回収しなきゃな」
　グレッグは数の多い敵に弓の三本撃ちで対応していたが、そのうち一本がそれて書棚の本をかすめた。
　アルレッテは、落下しそうになった本を風を起こして浮かせ、そっと書棚に戻す。
「まったく、書物は大切にって教わらなかったのかな」
　その様子を見ていたロベルトがアカリに言う。
「さて……図書館での戦いはイマイチやりにくいな。生憎戦闘向きの力じゃないってのもあるけど……来島、任せてもいいかい？」
　ロベルトのろっこんは対象を美少年にするというものなので、本人のやる気が上がる以外は確かに戦闘向けとは言えない。
「わかりました、俺もどこまで出来るかわかんない、ですけど……できるだけのことは、やります」
　アカリのろっこんもまた、戦闘向けとは言えなかったけれど。
　先輩の期待に応えたい、と思った。
　迫る黒い影に、デスゲイツの牙を素材にしたアルナイルダガーで立ち向かう。
（戦闘は、何より本を最優先に。でも、俺の力じゃ、ダメにしちゃうかも……）
　本を守るだけの余裕がない自分が歯がゆい。
（本は大事だけど……でも、一番守りたいのは、先輩だから）
　
　修の目が金色に光った。
（作られ生み出されたモノなら『幻視の光』で読み取れるはず）
　そう思って星の力を発動させたのだ。
（何かモヤモヤした闇が……）
　だが、意味のあることは読み取れなかった。　
「美咲紀、行くぞ！」
「はい！」
　修は読み取りを諦め、刀を振りかぶる。
「最初は峰打ちだが、凶悪なら斬る！」
　美咲紀の魔風と共に黒い影を挟撃する！
　どうやら手加減する余裕はなさそうだ。

　亮はボウガンで黒い影を狙撃する。
　本に当たらないよう矢の軌道を風で操り、敵を射抜いていった。
　だがすり抜けた一部の黒い影がスピカを襲う。
「にゃっ！？」
　あわや、と思えたが亮は慌てずステップを踏んだ。
「ボクシング部なめるな！」
　風を纏った拳は的確に黒い影にヒットし、吹き飛ばす。
「ありがとにゃ♪」
　スピカのお礼に、目をそらした亮はぶっきらぼうに答える。
「護衛だからな」

　黒い影は散り散りになり、やがて消えた。
「恵御納、無事でよかった」
　修が声をかける。
「心配かけてごめんなさい……書棚のワープに巻き込まれたみたいで」
　夏朝の返事に修は頷いた。
「ケガをしてる人はいませんか？」
　美咲紀の声に答える者はなかったが、亮はグレッグの褐色の手が異様に黒ずんでいることに気づいた。
「大丈夫か？　星型の薬草で治療しよう」
「大したことねーさ。さっき黒い影にちっとなでられちまったか」
　グレッグは軽いノリで答えるが、少し顔をしかめている。
「大分楽になったぜ、サンキュー、坊主」
「俺は亮だ。どうせなら名前で呼んでくれ」
「あいよ、リョウ」
　
　一行は、今度ははぐれずに地下への階段にたどり着いた。
「いよいよ五階だね」
（オーブに火を灯すチャンスがあれば、灯したいな）
　と思いながらルトが言う。
（状況や諸々を見て判断しなきゃね）

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