「お肉、獲ったどぉ～！！」
　後木の勝利宣言が裏庭に響く！
　桜崎がダウンしている隙に、牛３kg、豚１kg、鶏１kg（各種臓物系含む）、猪肉10kgを獲得した！
「牛はちょっと少なくなっちゃったけど、切奈ちゃんのおかげで猪ゲットなのだー！　利平ちゃんのリクエストで豚肉も持ってきたのだ！」
　思わぬ収穫に周囲のテンションも鰻登りだ！
「おお、肉、肉だー！！」
　米を炊き上げた握 利平も喜びの雄叫びを上げる！
「一心不乱の大肉祭りだ！　肉をオカズに米を食う？　Ｎｏ！ Ｎｏ！ Ｎｏ！ Ｎｏ！　フツウ過ぎるぜ、Ｍｙ Ｇｏｄ！　じゃあどうするかって？　よろしい、ならばこうしよう」
　握は早速、豚肉をスライスして生姜焼きのタレと絡めて焼き始めた。牛肉もニンニク醤油でさっと炒める。
　その間、ほかほかご飯を手早く握る。そして炒めた肉を巻き始めた！
「この、あえて薄く仕上げた極上の焼肉達。これをおにぎりに巻けば……、そう、肉巻きおにぎりの完成だ！」
「握くん、君って天才だー！」
　同じく米炊き出し係の初島が握の手を強く掴んだ。
「肉巻きおにぎり！　そういうのもあるのかー！　それならお肉を奪われずに食べられそうだねー」
「初島、俺のほうこそ感謝しないとだぜ。米のアイデアを出してくれて、本当ありがとうな……！」
　肉×米という、２人の熱い友情が実現した。
　握は肉巻きおにぎりを天高々と掲げ、堂々と宣言する。
「さあ、お前等、肉だ！　肉をおかずに肉を食え！　肉祭りだ、一心不乱の大謝肉祭じゃぁぁ！」
「真央ちゃんのセリフ取られたのだー！？」
　ガビーンッと口をあんぐり開けて驚く後木。彼女も黙っていられない！
「集え強者よ、骨肉相争うべしなのだ～！　肉は横取りするものではない、焼いた端から喰うものなのだっ！　おにぎりに巻く？　笑止なのだ！　巻く前に食うのだ！　巻きたければ、真央ちゃんの箸捌きに付いてくるのだ！」
　後木は肉をスライスし終えると、鉄板に油を引いてよく伸ばし始める。
　廃材に火が付いた上で熱せられた鉄板から、ジリジリと熱が上り始める。
「肉を食べる満足度は、闘争であるべし、なのだ。口を開けているだけで肉が飛び込むわけはないのだ。勝っても負けても自己才覚、なのだ……」
　遠くを眺め、神妙な表情でそう語る後木だ。

　そしていよいよ、肉が一斉に投入された！
「わぁ～！　高級肉って焼いた香りが全然違う～！」
　初島が感動していると、その匂いに釣られてシダ 美穂戸がやってきた。
「シンチャオ、シダもまぜろ。猫鳴館に、友達いない。けど、お肉、おいしいの、知ってる」
「やぁ～、シダさん、いらっしゃーい。俺は初島 優だよー。どっかで会ったことあるかもだけどよろしくねー！　あ、もうすぐ焼けるよー」
　初島の挨拶に、シダが生春巻きを手渡すことで応えた。
「生はるまき、もってきた、シダ。みんなで、食べよう」
「わー、生春巻きで肉と野菜を巻いて『手巻き肉サラダ』なんていうのもいいかもねー！」
　お茶碗に盛ったご飯片手にホクホク顔の初島。
「おっす、俺は握 利平だ。美穂戸、よろしくな！」
　肉巻きおにぎりを頬張りながら握もシダに声掛けた。
「コン、シダでいい。おまえ、にぎっぺ、か？」
「握りっ屁じゃねーし！　って、この包み紙、チラシじゃね？」

《　ベ　ト　ナ　ム　雑　貨　店　チ　ュ　ッ　ク　マ　イ　マ　ン　の　素　敵　な　ア　オ　ザ　イ　》

「ヴァン！　これ、うちの店の宣伝。するどいな、お前」
「ステマですね、分かります」
　謎の合意が握とシダに友情の握手を交わさせた。

「肉が焼けたのだー！」
　後木の雄叫びが開戦合図となり、一斉に鉄板へ欠食児童たちが飛び掛った！
「「いただきま～っす！」」
「む、それは私の焼いた肉ですよ！？」
　タン塩を持ってきた鈴野 加代が隅で退避しているにも関わらず、その魔手が伸びてくる！
「ああ、俺の豚も！！」
　握の飯の種の豚肉もかっ攫われた！
「と、とんでもないとこへ来ちゃいました……」
　ＢＢＱだと聞いてホイホイ参加した綾辻 綾花は既に涙目である。
　半ば諦めて、配膳側にまわる彼女。
「あ、お茶のおかわりが無いですね、持ってきます」

　肉が奪われる元凶は、後木と小刀祢とシダだった。
「牛と鶏は生焼けでも美味しいのだー！」
　と後木はわさび醤油で炙った先から箸を付ける。
　それを阻止しようと小刀祢が横から箸を伸ばしていく！
「もぐもぐ……ん～！　美味しいのです～村雨の分もあるです～」
　ちゃっかり相棒の猫の分まで確保している模様。
「皆さん、どうかしましたか～？　お肉はまだまだたくさんありますよ～。私はただ自分の分は取られたくないだけです～」
　後木の箸をブロック、もう片方の手でナイフを操り二刀流の構えだ！
　だが、今の小刀祢は解体の際に付いたのか、返り血がところどころに付いているので見た目は完全に羅刹である。
　本人はある程度食べたら、お肉が行き渡らない人のために肉を取ろうと必死なのだが、傍目から見たら後木と大して変わらなかった……。
　一方シダは２人が争っている隙に肉を奪って着実に腹を膨らましていた。
「ンゴーン、お肉ンゴーン。お肉、くえれば、シダ、蹴らない、多分」
　電光石火の三つ巴に一般ピーポーが介入する余地が見当たらない。
　と、ここで３人の箸が一枚の肉をほぼ同時に捉えた。
　しかし、肉はどの箸の先にも掛からず、鉄板から飛び出して宙を舞う！
　このままでは地面に落下すると全員が確信した、その時だった！