ミートダークファンタジー！｜リアクション

ミートダークファンタジー！

【準備編】

　真辺伸幸はペットの真っ白いドジョウの四郎さんに餌をあげると、ウトウトしだした。
「ぬー……。何だか『俺＝寝てる』みたいな印象らしいけれど、間違って無いからつっこめないのよねぇ」
　独白する間にも、睡魔が襲ってくる。
「全てはお布団の魔力がいけないのよー……」
　数秒後にはもそもそと布団に潜り込んでスースーと寝息を立て始めてしまう。
　真辺、肉の到着前に寝落ち！

　海原茂の言葉通り、夕方に猫鳴館へ待望の高級肉が届いた。
　発泡スチロールの箱を開ければ、なんと桐箱に入った牛・豚・鶏の各部位が勢揃いだ。
　受取人名義である海原、予想以上のグレードに少々戸惑い気味だ。
「これがあの欠食寮生たちの元に届くのか……」
　一瞬、身震いをしてしまう。既に『闘争』の二文字が頭によぎる。
「わぁ、これがあのお肉なんですね！」
　配送車のエンジン音を聞き付けたのか、海原の後ろから藤堂月乃が声を掛けてきた。
　肉を見た藤堂の顔がキラキラと輝いた。
「海原先輩、お肉をありがとうございます。先輩の強運のおかげで、私たちは今回すごく盛り上がっています！」
「そうか。それは何よりだ」
　テンション高い藤堂とは対照的に、海原はこれから起こるであろう肉争奪戦に憂鬱な表情を浮かべる。
　藤堂もそれを察したようだ。
「お肉を巡ってバトルが起きるのは、とても悲しいものです。なので、私は仲良く平等に分け合うことの大切さを説いていかねばっと思います」
「頼んだ。もう自治会長から退いている手前、あまり強く言うのも憚られる。藤堂がそう言ってくれると気が楽になる」
　一線を退いても、彼なりに寮生のことを思っているからこその心労なのだ。
「これが噂のお肉ですね！」
　綾辻綾花もやってきた。
「海原先輩、お肉ありがとうございます！　私、高級なお肉は食べた事がないので味が気になります。脂身が甘いとか蕩けるとか本で読んだことがありますけど、実際はどうなんでしょう？」
「そこは俺も食べてみないと分からないな。料理の出来が楽しみだな」
　肉を眺めて満足気な海原に声を掛けるものが１人。
「海原先輩、ここにいましたか」
　そこへ現自治会長の邪衣士がやってきた。
　彼は箱詰されている肉を見るなり、感嘆の声と共に目頭を押さえた。
「先輩、この肉は素晴らしいです。これほどの肉、凄くありがたいんですが……。絶対にひと悶着ありますよねこれ……」
「だろうな……、無策で渡したら血が流れるぞ……」
「そこまで酷いのかな！？」
　新旧自治会長が遠い目をする光景に、思わず藤堂がツッコミを入れた。
「藤堂、猫鳴館の食い意地を甘く見るな」
　邪衣は真面目な顔で言い放つ。
「アイツ等、こんな美味そうな肉を見たら必ず暴走するぞ。なにせハラペコ共ばかりだからな！」
「自治会長自ら言い切っちゃった……！」
　ガビーンッと白目を剥いて驚愕してしまう藤堂。
　しかし彼女もその事実を否定できないのだった。
　彼女もまた猫鳴館寮生だからだ。
「嵐の予感……」
　綾辻もゴクリと喉を鳴らして慄いている。
「万が一、肉が残ったときのことも考えないとだな。この梅雨の季節は肉が傷みやすいですよ」
「……猫鳴館の冷蔵庫ではいささかスペースが足りないな」
　共用の冷蔵庫では場所を取る上、温度がぬるい。
「ええ、ですから……」
　邪衣はホームセンターのビニール袋から、自家製燻製キットを取り出した。
「さっき、慌てて買ってきました。燻製にすれば場所も取りませんし、保存も利きます」
「ベーコンやハムも保存が利くものだし、豚肉が余ったらやってみましょう？」
「藤堂、それもいいな。よし、保存の件は万全だな」
　一同が話し合っていると、何処からともなく欠食童子たちが肉の気配を感じて玄関へ集まってきた！

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