「ちょっと待ちな！　誰に許可得て肉を弄ってんだい？」
　金属バットを肩に担ぎ、剣呑な雰囲気を漂わせながら桜崎 巴は調理に待ったを掛けた。
「初見の人もいるから名乗らせてもらうよ。あたしは肉の番人をさせて貰う桜崎 巴さ。この肉の所有者は海原会長、そうじゃないかい？」
　台所の一同は皆、顔を見合わせた。
　確かに、肉の当選者は海原だ。つまり所有者は海原といえる。
「会長は『仲良く喰えよ』と言った。だったら、その意思は尊重するべきじゃないかい？　誰かが料理を独占するような事態は避けるべきだろう？」
　桜崎の言うことはもっともだった。
　この夕食、恐らく肉の取り合いになるだろう。
　一同は声に出さずとも、彼女の意見に賛同した。
「なら決まりだね。料理人は許可制にするよ。あたしの許可なしに肉は触れられないと覚えておきな！！」
　ドンッとバットの先を床で小突きながら威圧する桜崎。
　これには調理側も「理不尽だ」と反論する。
　だが、桜崎の持論を肯定してしまった手前、逆に理不尽な意見を言っているのは料理人側になってしまっていた。
　桜崎は憤りを大声にして出した！
「身元保証がしっかりしてなきゃ、知り合いでも即座におあずけの刑さ！　肉を無理矢理強奪する奴、故意かどうかを問わず肉を損傷した奴は天井から吊るしてやるんで、決して肉にはありつけないと思いな！　そしてその肉はあたしが貰うよ！」
　条件が揃い、彼女のろっこん『カイシンの一喝』が発動した。
　鬼河内と大和が『ひと』だったため、通常よりも威力は落ちるが、それでも料理人側の反論を押さえ付ける位の効果は発揮できた。
　こうして肉の調理は許可制となり、番人の重圧の中での調理となった……。

　桜崎の取り決めにより、料理は配給式に、１人好きな料理を３皿までと取り決めた。
　流石に３皿食べれば腹は膨れるし、自分で選んだ料理なので文句を突っぱねる事が可能だ。
「おっと、部外者の分は本人に取り来てもらおうかね。寮生が代わりに運ぶのはなしだよ？　そいつが全部食べちまえば証拠が残らないからねぇ」
　徹底した管理体制をどんどん決めていく桜崎。
　実際は海原に何の断りも入れてはいないのだが、まさに『虎の威を借る狐』、権力者の言質を盾に事を進めていってしまうのだった。
「まぁ、争いが起きないのならそれが一番だ」
　旅鴉は飯盒から炊きたてのご飯を取り出しながら呟いた。
　藤堂にカットしてもらった野菜を組み合わせて、料理を完成させていく。

〔月詠特製なんちゃってマンガ肉と肉巻き焼き〕
　※誰でも簡単に作れます！※
材料：バラ肉（牛・豚お好みで）、ご飯、人参、牛蒡、インゲン

１：人参をスティック状にカット
２：肉を敷いてインゲンと人参を乗せ、巻く
３：牛蒡を骨に見立ててスライス
４：俵型のお握りを作り牛蒡を刺して同じように巻く
５：砂糖と醤油等で甘めのタレを作り、２と４を入れフライパンで絡めれば、

　肉巻きと、おにぎりのなんちゃってマンガ肉の完成！

　コツは崩れを防ぐ為に肉をしっかり巻く事！
　盛り付けは山盛りにしてあえて雑な感じに。
　そうした方が美味しく見えるぞ！

　調理開始してからしばらくして、後木がニコニコしながら台所へ突入してきた。
「食キング真央ちゃん、見参なのだ！　野外特設闘技場という名のバーベーキュー開催のため、牛肉４kg鶏肉１kgの提供を願うのだ！」
「後木、あんたにやる肉はないよ！」
「な、なんだってーなのだ！？」
　桜崎の言葉に、ショックのあまり腰を抜かす後木。
「真央ちゃん、折角裏庭に石を組んで網焼きできる場所を確保したのだ！　野外組は肉が調達できないとお話にならないのだ！」
「後木、肉は平等に扱うことになったのさ。好き勝手に持ち出されると困るんだよ」
　桜崎の説明に、後木の翡翠色の瞳に炎が灯る！
「完全平等な世界に真の発展など望めぬのだっ！　肉は戦わなければ食べられないのだ！」
「ええい、あんたみたいな奴が一番厄介なんだよ！」
　金属バットを後木の横腹を目掛けて振り回す桜崎。
「食キング舐めんなし！」
　だが後木も負けじと台所内を縦横無尽に移動して攻撃を回避！
　ドタドタと２人の戦闘が激しくなるにつれ、如月のこめかみに青筋が浮き出てくる。
「てめーら……」
　無意識に右手が額の傷をなぞると、淡い蒼い光が右手を覆う！
「台所で暴れんじゃねぇボケ！！　星になれ！！」

　衝撃音が、台所に轟いた。

　ろっこん『蒼穹』（ツッコミ）によって、玄関先を抜けて外まで桜崎と後木はぶっ飛ばされた。
「台所で暴れる奴は、肉の番人だろーが食キングだろーが問答無用だ……、全員纏めてブッころがすッ！」
　険しい表情で語る如月は、鍋の中で甘辛く煮え滾る肉の塩梅を確認する。
「よし……、至高の牛丼がもうじき出来る……」
　肉を見る彼の表情が、ほんの少しだけ和らいだ。

　そこへ顔出す白衣少女、伊賀 解理。
　自称低燃費系白衣なボクっ娘。
　彼女は肉来訪の知らせにこんな考えがよぎった。
「血の雨が降る！」
　故に頭脳プレーで誰よりも早く肉にありつこうという魂胆だ。
（この肉戦争、番人やら狂戦士やらが既に吹っ飛んでったが、それでもそう簡単には肉をゲットできないだろう。だがそれは戦場（食卓的な）での話だ。だったらそれ以外からゲットすれば問題ないはず！）
「こほん、料理の運搬を僕がやろう。なぁに深い意味はないさ。早く運ばないと飢えた野獣がこちらに来そうだなって思ったからね？」
　この言葉に悪意はないと感じた料理人たちは快諾する。
「だがしかしッ！　その前に味見をさせてもらう！　当然味見はしてるだろうけど、第三者の舌の意見も聞いてみるのも悪くないんじゃないかな？」
　上手く口車に乗せられていると分かっていても、彼らは料理に妥協するつもりはない。
　この申し出を飲むことにした。
「受けてくれて嬉しいよ。では、１口ずつ……」
　伊賀はまんまと目論見が成功。勿論、料理へのアドバイスも的確に行う。
「ちょっと味が濃いけど大丈夫かい？　こっちは逆に塩気が足りない。ああ、これは肉の臭みが強いね……。って、妙にこの肉硬い……？」
　一部にやたら硬い肉があることに疑問を感じつつ、伊賀の腹は着実に膨れていった。