メリーさんが座敷童、なの｜リアクション

メリーさんが座敷童、なの

　血色の良い顔で雨崎荒太郎が廊下を歩く。首にはタオルを引っ掛けていた。
「良いお湯だったでがんすー」
「ありがとうざいます」
　耳にした女将が立ち止まって微笑む。荒太郎は笑みを返した。
「寝子温泉には日帰りで来たことがなくて」
「そうでしたか」
「あの、もしかして沢野屋さんの女将さんでがんすか？」
「はい、そうです。女将の沢野美代子と言います」
　人懐っこい笑みで頭を下げる。丁寧な対応に荒太郎も笑顔で頭を下げていた。周囲の従業員を目にして言った。
「旦那さんは？」
「夫には先立たれ、私が沢野屋を継ぐことになりました」
「そうでがんすか。跡継ぎは？」
「娘がおりました、ですが……」
「いらっしゃいませなの」
　入ってきた業者らしい人物に少女が詰め寄る。
「え、いや、私は客では」
「十三人目の記念にさわので食べて行くの」
「メリー様は仕事に熱心なのはいいのですが」
　女将は笑って対応に当たった。荒太郎は微笑ましい遣り取りを眺めていた。
　――女の子は小さくて、手際もいいとは言えないでがんす。でも、沢野さんは幸せそうにしているでがんす。
「……あの子は本物の座敷わらしかもしれない、がんすねぇ」
　荒太郎の目が優しくなり、その場を静かに離れた。