メリーさんが座敷童、なの｜リアクション

メリーさんが座敷童、なの

　興奮した様子で雨崎荒太郎は寝子温泉に駆け込んだ。キョロキョロと辺りを見回す。沢野屋の名を目にした途端、突撃した。
　引き戸は勢いよく開けられた。
「座敷わらしがメリーさんで、都市伝説と民話がごちゃ混ぜになったキメラみたいなのがいると聞いて！」
　近くにいた従業員の一人が笑顔で顔を傾ける。困ったような間を空けて、いらっしゃいませ、と明るい声で言った。
　そこに女の子が瞬間的に現れた。荒太郎は軽く仰け反ったものの、腕を組んで前のめりの姿勢を取った。
「やいやい、このわらしの他に、どこの誰が九夜山で座敷わらしを名乗っているってんだい、でがんすー！」
「あたし、メリーさんが座敷童なの」
「言われてみればそれっぽいでがんす。女の子みたいな座敷わらし？」
　眼前の人物は黒髪のおかっぱで着物を身に纏っていた。梅の柄が鮮やかで愛らしい。じろじろと見る荒太郎を気に留めず、ぺこりと頭を下げた。
「いらっしゃいませなの。お風呂なの？　お食事なの？」
「それならお食事で。歩いてきたもんだからお腹が空いたでがんす……」
　思い出したかのように切ない表情で腹を摩る。
「こちらなの」
　女の子は食事処『さわの』に荒太郎を連れていく。カウンター席に座らせると手慣れた調子でメニューを渡した。
「充実してらぁ。じゃあ、このスパゲッティをくださーい！」
「わかったの」
　女の子は瞬時に消えた。
「便利なもんでがんすねー」
　数分後、荒太郎は魚介類が散りばめられたスパゲッティを存分に啜った。満たされた腹を撫でて会計を済ませる。
　ゆったりとした状態で食事処を後にした。
「ここまで来たんだし、風呂もいただくでがんす」
　目にしたフロントで入湯料を支払う。荒太郎は受け取ったタオルを持って湯と書かれた暖簾を鼻歌交じりで潜った。