春めいた土曜日の早朝、九夜山に一人の少女がふらりと現れた。
艶々したおかっぱ頭。愛らしい顔立ちによく合う、色鮮やかな小袖を着ていた。柄の梅は満開で季節感を醸し出す。
「寝子温泉に来たの」
朱色の草履を鳴らして歩く。
旅館の前で打水をしていた老婆の動きが止まる。皺に埋没した目を見開き、拝みながら少女の前に歩み出た。
「も、もしや座敷童様ではございませんか?」
「あたしはメリーさん」
「座敷童のメリー様でございますね。このような吉日を迎えようとは……」
老婆は感極まった。掌を合わせた姿で震えた。目の当たりにした少女が少し頭を傾ける。
「あたしはメリーさん。寝子島に遊びに来たの」
「ええ、ええ。いっぱい遊んでいってください。沢野屋は小さな温泉旅館ですが、精一杯のおもてなしをしたいと思っております」
おもてなしの言葉に少女は軽く反応した。薄紅色のぷっくりとした唇が僅かに綻ぶ。
「美味しい物がたくさん食べられるの?」
「もちろんです。温泉にも浸かっていってください。ずっといてくだされば、旅館としても嬉しい限りです」
「ずっとはいないの。ちゃんと帰るところがあるの」
真横から突風を受けたかのように老婆はよろけた。数秒で思い直して笑顔を見せる。
「ええ、それで構いませんとも。存分に楽しんでいってください」
「わかったの。期間限定の座敷童として出来ることをしてあげるの」
耳にした老婆は自然と手を合わせる。その姿で深く頭を下げた。
その後、沢野屋の従業員は宣伝に奔走した。
最初に旅館の出入口付近に幟を立てる。『座敷童が出没する旅館』と達筆な文字で書かれていた。
パソコンは最大限に利用した。ホームページに情報を載せた。ねこったーの力も借りる。宣伝用のチラシを何十枚も印刷して総出で島中に配って回った。
午前中に全てをこなした。誰もが少女を座敷童として受け止めていた。
「来た人をもてなすの」
旅館内のお食事処、『さわの』で少女はトレイを手にして言った。
「お出迎えするの。お帰りなさいませ、ご主人様ー」
瞬時に旅館の出入口に移動してぺこりと頭を下げる。
無邪気な瞬間移動の実演に従業員は信じるしかなかった。
今回は寝子温泉が舞台になります。神出鬼没のメリーさんが期間限定の座敷童(?)となって、
訪れた人々に少々の毒を吐きながら可愛らしく接してくれるはずです!
島民との触れ合いで徐々に人間らしくなってきました。あまり表情には出ませんが(ふぅ~)。
下記に詳細を書き連ねていきますのでアクションの参考にしてください。
◇◆◇沢野屋◇◆◇
寝子島ロープウェーの砂掛谷駅から徒歩数分、木造平屋建ての温泉旅館である。
出入口となるガラスの引き戸を開けると左手にフロント、右手にお食事処。中央は廊下になっていて、
中程に男女に分かれた風呂の設備がある(男女共通で屋内はタイル張りの浴槽、屋外は野趣に溢れる岩風呂)。
中央の廊下を突き当たったところから左右に宿泊客用の純和風の部屋が並んでいる。
全室から小さな庭園を眺めることが出来る。散策用に細い道が作られ、夜には足元を淡いライトが照らす。
料理は和食がメイン。寝子島漁港で、その日に水揚げされた魚を使った料理が舌の肥えた人々を楽しませる。
宿泊客用の夕食は部屋に用意される。朝食はお食事処で揃って頂くことになる。
◇◆◇さわの◇◆◇
宿泊客だけでなく、一般にも開放されている。メインの和食の他にグラタンやスパゲッティ等の軽食も取り扱う。
カウンターとテーブル席があり、奥には二部屋の座席がある。空いていれば誰でも利用可能。
◇◆◇動機と行動◇◆◇
PCの動機
ホームページ、ねこったー、チラシ等を目にして興味を持った。
または山登りの過程で偶然に沢野屋に立ち寄った。
PCの行動
1:お食事処の『さわの』で飲食。
2:温泉を利用(一般の利用も可)。
3:別の利用方法をアクションで提示。
4:沢野屋に宿泊(描写は翌日の朝まで)。
※全ての行動にメリーさんが関わってくる。アクション内で指定、または拒絶も可能。
◇◆◇NPC◇◆◇
メリーさん
見た目は小学校五年生くらいのおかっぱの少女である。
肉体を有していて瞬間移動を得意とする。顔の作りは愛らしく、乏しい表情で時に毒を吐く。
底なしの胃袋を誇り、過去のシナリオで猛威を振るう。
人間らしさを垣間見せるが、無理な頼み事には容赦ない攻撃を加えることもある、らしい(アクションによる)。
沢野 美代子
今年で七十三才を迎える沢野屋の女将。夫が亡くなったことで跡を継ぎ、裏方として働いている。
性格は温厚。商売っ気の無さを従業員にやんわりと指摘されることがある。
メリーさんを一目で座敷童と判断して歓喜する。過去に何かあったのだろうか。
※その他のNPCの登場は不可とする。
長々とガイドに目を通していただき、ありがとうございました。
ここまでを要約しますと、温泉旅館でメリーさんが好き勝手に振る舞う、という内容になります(ちょっと待て)。
不安な要素を孕みつつ、沢野屋は今日も元気に営業開始なのです(皆さんの参加を心待ちにしております)!