【星幽塔】第三階層　竜の肚には土の都｜リアクション

【星幽塔】第三階層　竜の肚には土の都

　あらかた戦闘の片付いたと思しき竜の顎を馬上に見回し、まもるは愛馬の首を軽く叩いた。
　動かぬ竜の尖兵の前でへたりこんで息を吐いている円や、その円のもとに向かおうとしているまほろ、倒した尖兵を前にどの個所を持ち帰るべきか相談している修と美咲紀、負傷者の治療に忙しい彰尋や回復のドラゴンロールなる巨大な肉塊じみた食べ物を疲弊のあまり座り込んで動けぬ悠月やアカリに勧める月詠、それぞれに立ち働く仲間たちを目にしながら、まもるは愛馬オブシディアンの様子に気を配る。
「ん」
　愛馬の黒い耳が不審げに動いた。草食獣の大きな瞳が見ようとする竜の牙の影へ、まもるは素早く視線を走らせる。
「スパイダースパイダー」
　ろっこんを発動させる駆け声と共、まもるは愛馬を駆った。走る馬上から、カウボーイが投げ縄を放つが如く、掌から蜘蛛の糸を発する。

「そら、隠れてもお見通しだぜ、」
　掌から放たれた蜘蛛の糸は、過つことなく竜の牙の影に身を潜めていた竜の尖兵を絡め、身動きを封じた。
「っと」
「わ、まだ居たんですか？！」
「馬の上からだと視界もいいんでね」
　驚きの声をあげる美咲紀に向け、まもるはウインクしてみせた。
「……うん？」
　そうしてから、蜘蛛糸で竜の牙に縛りつけた竜の尖兵へと目を向ける。愛馬の様子から見て、この場にたむろしていた尖兵は全て倒したか動けぬようになっているはず。
「なんか、変、です……？」
　美咲紀が首を捻る。まもるに拘束されたものも、あちこちに倒れたものも、まるで砂山が風に舞うようにそのかたちを崩して行く。
　あとに残ったものは、青白く揺らめく熱持たぬ、
「……炎？」
『土の竜の気。星の力持つ其方らに斃され、かたちを解いたか』
　荒事が収束するまで、リアや天馬と共に群れ立つ竜の牙の影に隠れていた天吏が呟き、天馬が短い息を吐く。
『呪いを帯び再び飢えた尖兵と化すか、如何なるかたちとなるか、今は解らぬ。しかしそれも少し先の話であろう。……ともかくも、道は拓かれた。我ら妖精はこれより先には行けぬ故』
　冒険者たちよ、と天馬は祈るように言う。
『先に進め。そうしてきっと、きっと――』