地面からモグラ妖精が畑へ飛び出す。
「大変だー!」
「でっかくなってたー!」
「すごーくでーっかくなってたー!」
目前に広がる、現実世界では決して見ることのないかたちをした野菜が整然と並ぶ畑のあちこち、慌てた様子で次々と現れるモグラ妖精たちに、
大天使 天吏は雷雲色した瞳を瞬かせる。
どうかしたのかと尋ねるよりも前、畑に面した緑鮮やかな森の木々がざわりと震えた。地平まで続く畑の、その地平の彼方から低い轟きが聞こえた。
畑の中、遊ぶように作業をしていた犬妖精がキャンと悲鳴を上げる。地震だ、とモグラ妖精の誰かが叫ぶ。
「また……」
足を踏ん張り、天吏は不穏に脈動する大地を見下ろす。
――ここ最近だが、地震が起こるんだ
思い出すのは、以前訪れた際に聞いた第三階層の住人の言葉。みずがめ座のアステリズムでもある彼は、地震の原因を知らぬ様子だったが、その時に彼の隣にいた妖精が『土の竜』について話していた。
最近は見ないと聞きはしたものの、その際に覚えた危機感を天吏は思い出す。
(土の、竜)
森を震わせ、大地を震わせ、まるで地の底からナニカが這い出してきているかの如く、その地震は小さく長く続いた。
それでも、地震が収まってしまえば妖精たちは何事もなかったように起き上がった。元通りに朗らかに楽し気に作物の世話を再開する彼らを見渡し、天吏は小さな息を吐く。
彼らは基本、どこまでも純朴で素直で、――だからこそ、どこか危うげにも見える。
みずがめ座のアステリズム、
リア・トトに近しい黒猫の姿した妖精が黒い影に侵され、主であるはずのリアを害したのも、その純粋さ故なのだろう。
四方に広がる畑の植物を揺らし、飛び交う翅持つ小さな妖精たちを空へ舞わせ、涼やかな風が吹き寄せた。
ローブの裾を翻させる風を追い、天吏は背に負うた六分儀を揺すり上げつつ空を仰ぐ。
物静かな瞳に映ったのは、どこまでも晴れ渡った空に隆々たる四肢を躍動させ、純白の翼で風を打ち据えて空を翔けて行く白い天馬。
翼に巻き付く風の音に、天吏は空仰ぐ瞳を細める。
「……?」
天馬の背に跨る農場主を見つけ、天吏は首をちらり、傾げた。中年であるはずの農場主の姿が、本来の齢の半分ほどに見えて。
◇◆◇◆◇◆◇
鞍も掛けずに跨った天馬の翼が風を切る音を耳に、
リア・トトは漆黒の瞳を細める。
大柄な中年男性であるその姿は、今は二十歳ほどのやや細身の姿となっている。短く刈り込んでいたはずの麦藁色の髪も、うなじを隠すほどに長い。
先の事件で、彼はその身を独立した意識持つ六人の少年に分かたれた。そのために得た、不幸中の幸いとでも言うべき後天性の力を使って身体を二十代ずつの二つに分け、リアは何代も前から家に仕える天馬を駆る。
己の領域とも言える広大な農場を出、壁の如く立ち塞がる山と深い森を越えて後、低く呻く。天馬のたてがみを握りしめ、見えた、と呟く。
眼下に広がるは、砂の丘陵が数多波打つ一面の砂漠。
黄金色した砂に覆われたそこに、砂の丘陵よりも巨大な顎を開いて、大地の色した竜が頭だけを出している。
『偉大なりし土の竜、されど愚かなりし土の竜
竜苛みしは古き呪、食らい喰らい尽くせし呪
苛まれ苛まれ苛まれ、哀しき竜は山脈を食む
土竜に呑まれしは土の精霊と絢爛たる土の都
竜は眠る、砂の海に
土の精霊たちと共に、土の都と共に』
天馬が朗々たる声で古い詩を謡う。
「前に見たときはもっと、……」
一度言いかけて口ごもり、リアは大山の如く砂中から顎を覗かせる土の竜を見やる。頭だけで丘陵の巨大さであれば、地中に埋まる身体はどれほどのものであろう。
「大きさはうちの屋敷と同じほどだったはずだ。前は、……そうだ、前は、言葉だって交わせたんだ。頑固だけど優しかったんだ」
『然り。されど一度目覚め再び眠りしうちに竜の呪を鎮めし力が綻んだ』
「あれじゃまるで土の砦か城だ。……ああなってもまだ、生きているのか」
『呪に心身を蝕まれ、最早言葉は交わせぬ。生命は、さて、有して居ろうか。分からぬ』
「土の竜がああなった原因は、……うちの子を歪めた奴と同じか」
リアの語気に僅か怒りが混じるも、天馬は静かに首を横に振る。
『否、時を経た故。おそらくは、竜に呑まれることで竜の身中に巣食う呪いを鎮め続けていた土の都と土の精霊たちが、竜の腹で滅したが故。続く地揺れは竜が地中より這い出しつつあるが故か』
「……あれは、この後どうなる」
リアの声が震えた。天馬は淡々と告げる。
『伝承そのままであれば、いずれ空腹に耐えかね暴れ始める。砂中より全身這い出せば、あれは必ず、作物の匂いに惹かれ農場に現れる。作物も建物も、住人も。全てを食らい尽す』
「それまでの、時間は」
『さて。頭が出てしまえば、あとはひと月あまりか』
「何か、術は」
暫しの沈黙の後、天馬は翼を羽ばたかせる。
『土の精霊たちの如く、竜の口より腹に飛び込むか。身中の何処かも知れぬ土の都を探し、土の精霊たちがかつて祈りによりて鎮めし呪の印を見つけ出すか。星の力宿せし彼の者たちがオーブに触れた如く呪の印に触れれば、あるいは――しかし、竜の体内には竜の気が凝ったものも居よう。竜の空腹を共有する竜の尖兵共は生物を襲う。……危険な旅となろう』
土の竜の開いた顎にリアは視線を伸ばす。陽の光に金色に染まる砂が雪崩れ込んで見える竜の口内、尖塔のように立ち上がる無数の牙の周囲を、数体ばかりのナニカがうろついている。
「あれが――」
『如何にも。あれが竜の尖兵』
一見、岩石で出来た鮫のようにも見える竜の尖兵たちは、毒々しい濃紫色した鰭を動かし、砂の上に黒い毒の粘液じみた跡を残しながら這いずり回っている。
『鰭や尾に触れなば麻痺毒が全身に回る。動けぬ時間は僅かなれども、その間に尖兵共は集い群がり、犠牲者を食らい尽す』
嗚呼、と嘆息し、天馬は苦く笑った。
『竜の腹の中には最早廃墟と化した土の都があるやもしれぬ。土の精霊たちの末裔が僅かなり生き存えて居れば、そうして彼らの力を得ることが出来れば、探索も少しは楽になるやもしれぬ』
それから数刻後、第一階層サジタリオ城下町の『Bar アストラル』や『猫島亭』等、ひとの集まりそうな場所に、少しばかり読み難い文字で書かれた貼り紙がはられました。
◆◆ 求ム冒険者! ◆◆
□集合場所 第三階層 リア・トト家前
■行き先 『最果ての砂漠』、土の竜体内
□日 程 ある程度人数が集まり次第出発、帰還日未定
◆目 的 土の竜体内に遺ると目される『土の都』あるいは『土の精霊』の発見、
都にあると目される『呪の印』の発見と再封印
□報 酬 ○竜の口内(粗方石化している模様)にて小型(馬程度)の土竜モドキ、『竜の尖兵』数体を確認。
討伐後、鱗や牙を素材として確保可能
○『絢爛たる土の都』と謳われた都の宝物を手に入れられる?
トト家所有の古文書には『山の内部ひとつ、そのすべてが土の都』との一文有り。
○希望あれば第三階層の畑や土地、家屋や小屋等を報酬として譲渡できます
※食料、必要な薬草等があれば此方で準備します
※危険が伴います
◇依頼主 リア・トト
こんにちは。
『星のサーカス団』としてはお久しぶりです。阿瀬 春と申します。
今回は、竜の体内探検ツアー(ちょっと命懸け風味)のお誘いに参りました。
求む冒険者! です。
ガイドには大天使 天吏さんにご登場いただきました。ありがとうございます!
もしもシナリオにご参加いただけます場合は、ガイドに関わらず、どうかご自由にアクションをお書きください。
スタート地点はリア・トト家の前を予定しております。竜の顎の前までは、トト家の妖精たちが空輸してくれるそうです。もちろん、騎士の光を使われましてもオッケーです!
ひとつの場面に行動を絞って濃いアクションにしてみるのも、複数の場面に登場回数を分けて幅広く対応してみるのも、どちらも楽しそうです。
ということで、いつもの説明、いってみましょうー!
星の力
星幽塔の中では、ひとりにひとつ、不思議な光が宿っています。
剣士の光(青) :剣技が上手くなる
闘士の光(橙) :腕っぷしが強くなる
狩人の光(紫) :弓矢が強くなる
盗人の光(金) :普段より勘がはたらき、器用になる。
(例:宝物を見つけたり、鍵開けが得意になったりする)
魔火の光(赤) :火の魔法を使える/星の光が宿った武器が火属性になる
(例:火の玉を飛ばす魔法が使える、刃に炎を纏ったりできる)
魔水の光(水色):水の魔法を使える/星の光が宿った武器が水属性になる
(例:水流を鉄砲の様に飛ばす魔法が使える、刃に水を纏ったりできる)
魔風の光(緑) :風の魔法を使える/星の光が宿った武器が風属性になる
(例:つむじ風を起こす魔法が使える、刃に旋風を纏ったりできる)
魔土の光(茶) :土の魔法を使える/星の光が宿った武器が土属性になる
(例:土礫を投げつける魔法が使える、刃に砂を纏ったりできる)
癒しの光(白) :自分や他者を癒すことができる
騎士の光(桃) :乗り物(生き物や機械類。大きさは馬程度まで)を巧みに操り戦う
星の力を小型の乗り物に変化させることもできる。
ペガサスなど架空の生き物、一般的な装備などもOK。
(例:炎を吐くチビドラゴン、手綱や鞍のついた馬)※機銃のついたバイクはNG
※アクション例
【騎士の力/剣】馬を巧みに乗りこなす。※この場合乗り物は別途調達
【騎士の力/馬】星の力を馬として実体化し、巧みに乗りこなす
呪術の光(黒) :呪いの力で対象を弱体化させる
(例:体力を奪う、敵の攻撃魔法を弱くする)
光は体に宿ったあと、その者にあわせた形状に変化し、身につけることになります。
(例:指輪、体に埋め込まれる、武器になっている、愛用の武器の装飾に)
※星の力のサポートは、星の力が宿ったアイテムを所持していない時は受けることができません。
※武器(剣、弓、斧、杖など)はひとりひとつ。双剣など2つで1セットのものなども可。
※星の力やその形状は、変化したりしなかったりいろいろなケースがあるようです。
(このシナリオの中では変化しませんので、今回はひとつだけ選んでください)
※もれいびは「星の力」と「ろっこんの力」の両方使えます。
※ひとは「星の力」を使えます。
※塔に召喚されると、衣装もファンタジー風に変わります(まれに変わってないこともあります)
※もちものは、そのPCが持っていて自然なものであれば、ある程度持ちこめます。
どの星の光をまとい、その光がどんな形になったかを
アクション冒頭に【○○の光/宿っている場所や武器の形状】のようにお書きください。
衣装にこだわりがあればそれもお書きください。
それから、もうひとつ。
シナリオ内へのアイテムの持ち込みについて。
※【星幽塔】シナリオのアクション投稿時、作物アイテムを所持し、【アイテム名】、【URL】を記載することで、シナリオの中で作物(及びその加工品、料理など)を使用できます。
竜のお腹の中で、ご参加、正座してお待ちしております。