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せんせいといっしょ：早川先生編
【ほんの少し】
先日のこと。期末試験を数日後に控えた、ある日の放課後でした。
すぐにも試験が始まるということで、部活はお休み。授業が終わると、椎井 莉鳥はすぐにも図書室へ向かいました。
もちろん、試験勉強をするためです。いくつか不安な科目がありましたし、覚えなければならない単語や、網羅しておかなければならない範囲がいくらか残っているのです。
さっそく莉鳥は空いた席に適当に座り、教科書とノートを広げて、一心にシャープペンシルをさらさら、さらり。走らせ始めます。試験前にはまっすぐに家へ帰って机に向かうか、あるいはこうして図書室か、図書館にでも立ち寄って、暗くなるまで勉強していくのが、彼女のやり方です。
今日も莉鳥は、ひっそりとした図書館の空気に身を浸し、勉強に励んでいます。けれど……その行動は実のところ、ひとつの建前でもありました。
何だかどうしても、まっすぐ家に帰る気になれなかったのです。
莉鳥は今、１年生です。そして去年の今頃も確か、まったく同じように、ここでこうしてシャープペンを走らせていたように思います。
あの頃。あの時。思い返してもいまだに、なぜそうしてしまったのか、莉鳥自身も確信が及ばずにいます。
「…………ふう」
ため息。
去年の、ちょうど今頃。期末試験の一切を、莉鳥は極めて衝動的に放棄し、その期間中をひたすら自宅の部屋に籠って過ごしました。
あれは、いつ頃だったでしょうか？ あまり、はっきりとは覚えていません。大事な試験を投げ出した結果順当に留年を喫し、２回目の１年生が始まってから、いくらか時が経った頃であったような気もします。
「やあ、今日も頑張ってるね」
その日、早川 珪先生は、無口でいまひとつ愛想のない莉鳥へ、いとも簡単にそう声をかけました。
「えっと。どうも」
「でも、大丈夫かい？ ずいぶんと根を詰めているように見えるけど。勉強は確かに大事だけど、あまり無理はしないようにね」
珪先生とは、決して親しいとはいえません。図書室を利用する中で、時折すれ違いざまに挨拶をしたり、本を借りる時に二言三言会話を交わす……その程度の間柄でした。
それなのに、彼はどうやら、無表情にひたすら机へかじりついている莉鳥を心配して、気にかけていたようなのです。
「……ありがとうございます。でも、そうも言っていられませんから」
「うん？ ふむ……何か、事情がありそうだね。良かったら、聞かせてくれないかい？ 君さえ良ければ、だけど」
そんな、唐突な申し出に。かたん、と椅子を引いてさりげなく隣の席へ腰かけた、珪先生に。
しばし、逡巡に暮れた後……いつしか莉鳥は、なぜだか全てを、つらつらと、とりとめもなく語り出していました。
なぜ？ たまたま声をかけてきた、彼へと？ 誰かに聞いて欲しかった……なんて、そんなつもりもなかったはず。何もかも拒絶するかのように、それでも同じことを繰り返すのは気が引けて、ひたすらに机に向かって、ペンを走らせて……ほかのことには、考えも及ばないままに。
それなのに。
「それで……私は突然、期末試験を投げ出してしまったんです。どうしてそんなことをしたのか、その時のことは、自分でも良く分かりません。その後はもちろん、私は留年して……今は、もう一度１年生をやり直してます」
「そうだったのか。それは、大変だったね……それで」
気さくな先生の、爽やかで好感の持てる微笑みに。どこか油断して、気を許してしまったのかもしれません。
「今は、どうだい？ その時のことを振り返って、君は、どう思う？」
「さあ、別に……大した理由なんて、なかったのかも」
決して、成績が悪かったわけではありません。だからこそ、彼女の行動は周囲を、親を教師を友人を、元カレで今では腐れ縁な彼ですら、ひどく困惑させてしまいました。
彼の問いに、莉鳥は肩をすくめて、そっけなく答えます。
「同じ本の同じページを二度読んだけど、結局何も判らなかった。……それだけの話ですよ」
理由は結局、あやふやなまま。
そして、今。２回目の１年生の期末試験を無事に終えた莉鳥は、図書室で、相も変わらずシャープペンシルを走らせています。
あたりでは何人かの生徒たちと、それに珪先生が、忙しく何かを制作中のようです。確か、『君だけのミニコーナーを作ろう』、だったでしょうか。
手を止めてぼんやり、そんな光景を眺めていると。ふと珪先生がこちらを向いて、莉鳥へひらりと手を振り、にっこり笑います。
気付けば、去年の今頃よりもずいぶんと、心は落ち着いているようにも思えます。珪先生へ、莉鳥はほんのり、うっすらと口角を上げ、微笑みを返しました。
先日のこと。期末試験を数日後に控えた、ある日の放課後でした。
すぐにも試験が始まるということで、部活はお休み。授業が終わると、椎井 莉鳥はすぐにも図書室へ向かいました。
もちろん、試験勉強をするためです。いくつか不安な科目がありましたし、覚えなければならない単語や、網羅しておかなければならない範囲がいくらか残っているのです。
さっそく莉鳥は空いた席に適当に座り、教科書とノートを広げて、一心にシャープペンシルをさらさら、さらり。走らせ始めます。試験前にはまっすぐに家へ帰って机に向かうか、あるいはこうして図書室か、図書館にでも立ち寄って、暗くなるまで勉強していくのが、彼女のやり方です。
今日も莉鳥は、ひっそりとした図書館の空気に身を浸し、勉強に励んでいます。けれど……その行動は実のところ、ひとつの建前でもありました。
何だかどうしても、まっすぐ家に帰る気になれなかったのです。
莉鳥は今、１年生です。そして去年の今頃も確か、まったく同じように、ここでこうしてシャープペンを走らせていたように思います。
あの頃。あの時。思い返してもいまだに、なぜそうしてしまったのか、莉鳥自身も確信が及ばずにいます。
「…………ふう」
ため息。
去年の、ちょうど今頃。期末試験の一切を、莉鳥は極めて衝動的に放棄し、その期間中をひたすら自宅の部屋に籠って過ごしました。
あれは、いつ頃だったでしょうか？ あまり、はっきりとは覚えていません。大事な試験を投げ出した結果順当に留年を喫し、２回目の１年生が始まってから、いくらか時が経った頃であったような気もします。
「やあ、今日も頑張ってるね」
その日、早川 珪先生は、無口でいまひとつ愛想のない莉鳥へ、いとも簡単にそう声をかけました。
「えっと。どうも」
「でも、大丈夫かい？ ずいぶんと根を詰めているように見えるけど。勉強は確かに大事だけど、あまり無理はしないようにね」
珪先生とは、決して親しいとはいえません。図書室を利用する中で、時折すれ違いざまに挨拶をしたり、本を借りる時に二言三言会話を交わす……その程度の間柄でした。
それなのに、彼はどうやら、無表情にひたすら机へかじりついている莉鳥を心配して、気にかけていたようなのです。
「……ありがとうございます。でも、そうも言っていられませんから」
「うん？ ふむ……何か、事情がありそうだね。良かったら、聞かせてくれないかい？ 君さえ良ければ、だけど」
そんな、唐突な申し出に。かたん、と椅子を引いてさりげなく隣の席へ腰かけた、珪先生に。
しばし、逡巡に暮れた後……いつしか莉鳥は、なぜだか全てを、つらつらと、とりとめもなく語り出していました。
なぜ？ たまたま声をかけてきた、彼へと？ 誰かに聞いて欲しかった……なんて、そんなつもりもなかったはず。何もかも拒絶するかのように、それでも同じことを繰り返すのは気が引けて、ひたすらに机に向かって、ペンを走らせて……ほかのことには、考えも及ばないままに。
それなのに。
「それで……私は突然、期末試験を投げ出してしまったんです。どうしてそんなことをしたのか、その時のことは、自分でも良く分かりません。その後はもちろん、私は留年して……今は、もう一度１年生をやり直してます」
「そうだったのか。それは、大変だったね……それで」
気さくな先生の、爽やかで好感の持てる微笑みに。どこか油断して、気を許してしまったのかもしれません。
「今は、どうだい？ その時のことを振り返って、君は、どう思う？」
「さあ、別に……大した理由なんて、なかったのかも」
決して、成績が悪かったわけではありません。だからこそ、彼女の行動は周囲を、親を教師を友人を、元カレで今では腐れ縁な彼ですら、ひどく困惑させてしまいました。
彼の問いに、莉鳥は肩をすくめて、そっけなく答えます。
「同じ本の同じページを二度読んだけど、結局何も判らなかった。……それだけの話ですよ」
理由は結局、あやふやなまま。
そして、今。２回目の１年生の期末試験を無事に終えた莉鳥は、図書室で、相も変わらずシャープペンシルを走らせています。
あたりでは何人かの生徒たちと、それに珪先生が、忙しく何かを制作中のようです。確か、『君だけのミニコーナーを作ろう』、だったでしょうか。
手を止めてぼんやり、そんな光景を眺めていると。ふと珪先生がこちらを向いて、莉鳥へひらりと手を振り、にっこり笑います。
気付けば、去年の今頃よりもずいぶんと、心は落ち着いているようにも思えます。珪先生へ、莉鳥はほんのり、うっすらと口角を上げ、微笑みを返しました。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2017年01月26日
- 参加申し込みの期限
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- 2017年02月02日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2017年02月02日 11時00分
