【星幽塔】第九階層　星が飾ったカナーリス｜リアクション

【星幽塔】第九階層　星が飾ったカナーリス

　アンテナアスパラでアルゴーと連絡を取ることが出来ている修はぐんぐんと進んでゆく。
　襲い来るかいぶつを相手に、月が刃を手にし咄嗟に相対する。
（……しぶといです）
　ヒュ、と風切り音と共に投じたダガー。その刃を避ける様に身を捻ったかいぶつの強さに小さな舌打ちを漏らした。
　強敵が増えてくることで、本来目的の黄金の花が近づいていることが徐々にわかる。
　黒い外套を大きく揺らし、土を踏みしめた月は叢に隠れる様に体を捻り、静かにかいぶつの背後へと立ち回った。
「――こっちです」
　聞こえたのは僅かに風を切った音。そして、かいぶつが気を失ったように倒れた音だけ。
　無駄な殺生を避けると気を配った結果だろう。目立った外傷もなく、かいぶつには命に別状はないようだった。

　

　巨大化した怪物の多さに御剣刀は心を震わせた。
　その大きさの儘に本気で飛び込んできたならば――それは、危険という言葉がぴったりと当て嵌まる。
　強大な敵を倒し、見事黄金の花を手に入れることが出来たならば。
　そう考えるだけでも心は大きく震えた。

　掌に馴染んだ日本刀。ゆっくりとその感触を確かめながら彼は瞼を落とす。
　聴こえる足音はずん、と重たい。
　常人のものではなく、それが『かいぶつ』と称されるものであると彼には確かに分かった。

　――ガチン！

　振り仰ぐとともに、脳内で撃鉄を落とす。
　地面を踏みしめ、加速することで瞬時に世界はコマ送りとなった。まるでロードショウのように、場面がかしゃりと切り替わっていく。
　凍て付く世界はそのスピードを失って緩やかに時を流れさせた。
　それは、見えているものが『そう』だからなのかもしれない。実際の速度よりも刀の精神は研ぎ澄まされその速度の向こう側に居た。
　踏みしめた土の柔らかさに靴底が沈み込む。
　一気に踏みしめれば、蹴り飛ばした泥が跳ねあがった。日本刀の柄に掛けた掌が妙に熱い。
「――この刃が届くまで、世界よ凍て付け！」
　声にしたならば、それさえも遅れて聴こえた。
　眼前のかいぶつはシロクマを思わせる。巨大なその体躯に向けて一閃した刃を翻せば、シロクマの腕が飛び込んだ。
　背後から他のメンバーが進んできている。
　それならばこの場所に辿り着く前に――アルゴーを護った時と一緒だった。

　アルゴーより飛び上がり周囲を旋回するかいぶつたちへと一撃落とす。
　速度と重力を得た刃は何よりも重く、衝撃を強大な生物たちへと与え続けた。

　これでも喰らえ――！

　只、その一撃と共にアルゴーに着地し、繰り返し相手を叩き続ける。
　逃げるものは追わないと戦い続けたその証左がこの場所にも出ていた。

「『かいぶつ』……」
　その名を口にするとシュールそのものだが、相手はそんな可愛らしいものではない。
　スピードに乗り、そのままに一撃を投ずる刀はゆっくりと相手へと向き直った。