【星幽塔】第九階層　星が飾ったカナーリス｜リアクション

【星幽塔】第九階層　星が飾ったカナーリス

　冒険において大切なのはヒーラーの存在だ。花が大好きな美咲紀はまだ見ぬ『黄金のお花ちゃん』との邂逅を夢見ながらアルゴーで進む。
　遠回りとなった以上、アルゴーがかいぶつに襲われる理由を論理的に考える修の意見に賛同し積極的にかいぶつたちを相手とろうと杖に光を灯した。
　白翼部分に緑光が走査線のように煌めいてゆく。
「シュー君、行きましょう！」
　風で周囲の攻撃を後押しし、由貴奈の矢の飛距離を増大させながら美咲紀は支援職として立ち回る。
　白昼夢と混ぜ合って、風に乗せてそれを届けると修は襲い来るかいぶつ達と相対した。
「殺さずに済ませよう」
　敵対することが無いように――そう願った彼の近くで空イルカ達が楽し気に跳ね回る。
　どうやら、空イルカ達には修の意図は通じているようだ。だが、かいぶつ達はそうもいかない。
　どうして、と聞かれても『そこにいるから』と答える様にあんぐりと牙を剥きだし、飛び掛かってくる。
「完全に凶暴化してると見た」
　長弓を手にした修が肩を竦め、ゆっくりと迎撃の体勢へと移行する。
　緑の光が白い翼へと一瞬線を引く。杖にまで充填される魔力、その感覚を感じて美咲紀はゆっくりと祈る様に息を吸った。
「―――仕方ないのです」
「ああ、これは仕方がない」
　アルゴーを襲われてはこちらの不利益になる。出来れば、倒さずにいたかったと修と美咲紀は顔を見合わせ、風に矢を乗せた。
　ヒュ、と空気を裂く様に飛んだそれはかいぶつの額へと鋭くぶつかった。
　ついで、美咲紀に後押しされて前線へと羊たちの一撃を喰らわせる瑠樹と、弓を引いた桜と亮。
　回復と、支援を行いながらも無事に乗り切ることが出来た彼女の前には鬱蒼と繁る草木に覆われた島が存在していた。
「あれが――２の島……」
　黄金の花が咲くというその場所。

　

　アルゴーの中で待って居るというピエロットと由貴奈は日向ぼっこをしながら船の安全を守っているのだろう。
　草木をかき分けて、護衛役として美咲紀と修と共に歩み出した常闇月は周囲から感じる気配に小さく息を吐く。
（……かいぶつが出現するという話は本当の様ですね）
　黒髪を風に揺らせ、痩躯に黒い外套を纏わせた月は革の腕輪の宝石をゆっくりと撫でる。
　黄金の花を探すというミッションの達成に護衛は必要不可欠だ。周辺から襲い来るのならば真っ向勝負では分が悪いことは判り切っている。
「奇襲や死角からの攻撃を主体にしながら進みましょう」
　ナイフと鋼糸は十分に扱いなれている。グローブに包まれた掌にぐ、と力を込めて彼女は皮袋に慎重に炸裂芋を詰め込んだ。
「お役立ちだな、炸裂芋」
「はい。……テルミツ唐辛子の汁と炸裂芋です。簡易焼夷弾モドキにしてみました」
　海上での戦闘でも使用されたそれ。修の言葉に月はこくりと頷く。
　まだまだ試作品だ。改良が必要なことは良く分かっていると言いながら草木を踏み分けた彼女はすん、と鼻を鳴らした。
「来ます」
　ゆっくりとダガーを握りしめ、向き直る。
　できれば殺したくないという美咲紀の言葉に頷きながら、魔風で周囲の音を確かめる彼女の手助けを借りながら叢へと身を隠す。
「荒っぽいことをして『黄金の花』さんが怖がってしまっては可哀そうなのです」
「……そうですね」
　黄金の花――彼女に名前はないのだろうが、彼女と呼ばれる以上は意思疎通のできる存在だ。
　その彼女が住まうという島で手荒いことはできれば避けたい。殺すことなく不意打ちでかいぶつの足止めが出来れば。
　ゆっくりと鋼糸を手繰り寄せ、月は一気にその身を投じた。