【星幽塔】第九階層　星が飾ったカナーリス｜リアクション

【星幽塔】第九階層　星が飾ったカナーリス

　ざあ――音立て吹いた風に帆は膨らみ、重い巨躯を引き摺った。
　踏みしめればぎしりと音立てる交易船『アルゴー』は、海の気配に煽られながらも、木々の香りを失わない。
　豪華客船と呼ぶには、質素だが大きさはそれと同等だろうと羊の角を生やした青年――ピエロットは言った。
　アルゴーの上空へと跳ね上がった巨大な鯨と擦れ違い、ぱたりぱたりと落ちた水飛沫が太陽に晒された膚に心地よい。
　この場所が、『塔』であると思うには余りにも広大な海原が広がっており。
　この場所が、『海』であると思うには今までの塔での経験から違和感も感じられる。
　ダンジョンの中に存在する１つの場所なのだと認識すれば心に湧き上がるのは冒険への期待。

　すう、と大きく息を吸い込んで龍目豪は大きく両の手を広げる。
「海だ――――！」
　腹の奥から声を張り出して探検部の部長として豪は瞳をきらりときらめかせる。
　日に焼けた肌は海の男と言う表現がよく似合う。
「宝だ――――！」
　此度のオーダーは宝探し。黄金に輝く花を探す事こそがこの階層の命題だ。
　風切って進むアルゴーは駆動の部分に重要な欠陥を宿しているのだと船の主、ピエロットは豪へと告げた。
　広大な空と海。鮮やかな世界にうんと伸びをして、風雲児轟はゆっくりと空へと手を伸ばす。
「戦衣着装！」
　慣れ親しんだその言葉。その体に纏うは『ザ・ストレイト』としての装備。
　特撮ヒーローを思わせたそれに身を包むことで誰かの願いを叶えると轟はオーブをともすために尽力するとピエロットとアルゴーへと告げた。
「海ばっかりの階層を豪快に大冒険したい気もするが、まずはオーブだな！
　それで、ピエロット、花の咲いている場所の目星はついているのか？」
「んんー……」
　陽を避ける様に、影となった場所へとベンチとふんわりとしたクッションを置いて座っていたピエロットは眠たげに眼を擦って轟を見上げる。
　ぱちくりと幾度も繰り返す彼は首をこてりと傾いだ。
「ううん」
　言葉少なに話すのは彼の気質なのだろう。
　目蓋がとろりと落ちかけながらもピエロットは轟を見上げて、首をふるふると振る。
「ぼくは、知らないんだなあ……」
「そ、そうか。知らないのか？」
　知識として交易船『アルゴー』と黄金花が合わされば、オーブが灯ることを知っているのだというピエロット。
　時勢に疎いのか、それとも眠たくて脳がうまく働いていないのかは分からないが彼は交易が盛んで、この階層では一番の港町である『１の島』に向かった方がいいのだと轟へとたどたどしく告げた。
「ピエロットさん……眠そうだねぇ」
　傍らで、ピエロットの使っていたクッションをふわりと触った曖浜瑠樹は丸い瞳でピエロットを見上げる。
　のんびりとした雰囲気の彼と眠たげなピエロットの過ごす時間は丁度よいのだろうか。
　丸い瞳でじぃとピエロットを見つめた瑠樹は傍らに座り「疲れているのかなぁ？」と首を傾いだ。
「花探しをピエロットもしているなら疲れているかもしれないな」
「うんー……」
　もこもことしたローブを纏った瑠樹は慣れた様に『サンマさんストラップ』を取り出して「ピエロットさん」と彼を呼んだ。
（沢山和んで欲しいねぇ……）