【星幽塔】第九階層　星が飾ったカナーリス｜リアクション

【星幽塔】第九階層　星が飾ったカナーリス

　轟の豪快な大冒険はかいぶつとの闘いで一時中止していた。
「ッウオオオオオオ―――――！」
　気合の雄叫びで威嚇を行った轟は両の掌に力を込める。相手は巨大な生物だ。
　ここで負けるわけにはいかないと彼は、フットワークを駆使し、渾身の力を込めた。
　ホープ・ストライクに込められた力の儘に、強烈な拳を叩きつける。
　その一撃に怯んだように、巨大生物は「グゥ」と小さく声を漏らした。その儘の勢いで蹴り上げれば、ぐらりと巨体が揺れる。
（今だ！）
　その瞬間を見逃すまいと、ヒーロー修行の成果を見せるべく轟は向き直る。
　強く踏みつけた刹那、その周囲に砂が巻き上がる。

　轟は吼えた。
　腹の底から、声と言う声を振り絞り、息を吸い込んだその儘に全てを吐き出して。
「喰らえッ」
　右の拳に力は力が込められている。只、その一撃が奮い立つように彼の心を刺激した。
「ゴーカイ・スマッシャァァァア！！！」
　殴りつければ、そのままにかいぶつは倒れていく。
　一つの『安全』を護れたと満足げな轟に安堵したように卯木衛は息をついた。

「かいぶつ居たな……」
「居たな……」
　衛の一言に来島アカリは小さく頷いた。
　女性的な雰囲気を持つアカリの表情は、やや不安が浮かんでいた。
（ホントにこっちであってんだろうな……？）
　何時もより多めに飛んでおりますと跳ね続ける衛の背中を追いかけて叢に隠れながら進む二人はどうにも不安だ。
「んー……いくつかあるけど、あれっぽい気がする！　勘だけど！」
「もう一度聞くけど、本当にあってんだろうな？」
　ぴょいんと跳ね上がった衛。ウサギのようにぴょんぴょんと飛んだ彼を信頼してもいいものかと疑いの眼差しを向けたアカリは首を傾いだ。
（勘って言ってもな……）
　かいぶつが多くなればその辺りに正解があるよと言うピエロットの言は現在進行形で確かに当て嵌まっている気がする。
　探索中に「こっちにありそうだね」とふらりと姿を消した月詠や夏朝が向かったのも衛の指し示す法学と合致している。
（……信じていいんだよな）
　ちら、と視線を向ければ、盗賊の光を宿した彼は「こっちこっちー！」と楽し気に手招いている。
「アカリくん、もしもだけどさ」
　叢をがさがさと歩き回りながら彼は小型ナイフで薬草を確保している。
　旅の準備をしているのだろう。それに乗じて少しばかりの休憩を確保したアカリは「うん」と小さく頷いた。
「この階層で黄金の花を枯らしたのが『黒影ゴンザレス』だったとしたらさ。
　正解の花のところに黒影的な敵がうじゃうじゃいんじゃねえかなって思うんだよなー今までの展開的に」
「むー……確かに黒影の仕業はあるかも」
　その言葉に一瞬身を固くしたアカリは周囲に気を付けなければと作戦会議を開始する。
　今までのかいぶつたちは巨大な体躯で、海に住まうためか、『水属性』と呼ぶにふさわしいようにも見えた。
　無論、それでも『何かの形を模っており影には思えない』ため、その可能性を捨て置いていたのだが……。
「ここから先の敵が影っぽくなったら正解だよなー？」
「うん。それはちょっと気を付けたほうがいいかもしれない」
　勘で動いている以上、何かしらの危険に遭遇する可能性は上がっていく。
　花の近くに敵が多いというピエロットの言から影が敵となる可能性を示唆し、二人はいくぞ、と進み始めた。
　――進み始めた、のだが。
「かいぶつ……！」
　ぞ、と背筋を猫のように逆立てた衛は「アカリくん！」と呼び、木の上へと飛び乗った。

　