【今年もよろしく！】

　やがて宴会の盛り上がりは、最高潮へ！
　神さまたちもすっかり酔っ払い、ふらふらゆらゆら。どんどんぱふぱふ、ねこの楽団がぶかぶかどんどん。やんややんやとどんちゃん騒ぎ！
「……あれぇ、湊兄ぃ！？」
「何だ、澄佳も来てたのか。一緒に飲む？」
「もう、酔っぱらって。あたし未成年だよう！」
　澪乃 澄佳と澪乃 湊弥はばったり、兄妹で偶然にも顔を揃えて、結局一緒に、しばし神さまたちも交えて歓談。澄佳の持ってきた伊勢海老あわびにフグ松茸、その他諸々高級食材てんこ盛り料理に、湊弥の見繕った良いお酒を楽しみました。
「うおおお、美味そうだな……！」
「おおー、すごい！　ねー、ボクも食べていーい？」
　配膳もひと段落した御剣 刀に桜庭 円も、宴席に参加。食べても食べてもなくならない豪華な料理たちを思う存分に堪能し、そのお隣では、鬼河内 萌が自らこしらえたカレーを食べまくり。
　萌は不意に、ハッ！　と気づいて、
「……あれっ？　あの女神さま、ののこママって呼ばれてるの？　それじゃ、もしかして……ののこちゃんって、神さまの子どもなのー！？」
「今さらか、鬼河内……」
　苦笑いの八神 修にツッコまれました。
　修は椿 美咲紀と一緒に、お仕事がひと段落ついてくつろぐののこママへ、お酌をしています。不意に彼はスマホを取り出すと、写真を映し出してののこママへと見せながら、
「野々にはいつも元気をもらってますよ。これはこの前、一緒に勉強を教えた時の写真で……」
「あらあら、あの子ったら楽しそうね♪　このお隣の女の子は？　ののこのお友だち？」
「ふふー！　その子はあおいちゃんといってですねー、ののちゃんの親友で、シュー君の好」
「つっ次の写真へいくぞ！　これはバレンタインデーに、みんなへチョコを配ろうって彼女が思いついたときのやつで……！」



　一方、挨拶まわりを終えたナマズの神さまは、どっかと座り込んでひと心地。それを見た綾辻 綾花が、すぐにもするりと隣へ座って、杯を差し出します。
「いやー、やっとひと息つけるわい……おっと、こりゃあすまんの！」
「ナマズさんも、ゆっくり休んでくださいね。お雑煮はいかがですか？　テオも、どう？　テオがついたお餅も入ってるよ」
　テオは相変わらずふてくされたような顔をしておりますけれど、綾花がそう言うと、小さくこくりとうなずいて、
「……くれ」
「じゃあ、にゃんこの形と、ハートの形のお餅を入れてあげるね。今日はありがとう、テオ。いい経験ができたし、面白いお話も聞けたし……また何かあったら、呼んでね？」
　やっぱり、ぷいっ！　けれど彼も、きっと感謝していることでしょう。あたたかいお雑煮をずずずとすする彼は、まんざらでもなさそうな顔をしておりました。
「今度こそ、野々さんのお母さんには休んでいてもらわないとな。ここからが本番だ」
「そうね、もうひと頑張りしましょうか」
　鴻上 彰尋と志筑 かりんの手は、多くの料理を完成させてなお止まることなく、ますます忙しく動き続けます。彼らにとっては、天界の住人たちもまた、もてなすべき神さまなのです。
　さらに、キッチンにはこう見えて料理もお得意な、新田 亮もヘルプに加わっています。
「普段から料理はしているからな。きっと役に立てるだろう」
「頼もしいな、助かるよ」
「ええ、とってもね。あと少し、頑張りましょう！」
　そう言ってかりんが追加で仕上げたナポリタンを、ローラースケートががーっ！　橘 明里が、元気いっぱいに運びます。
「はいはーい、通りますなのー、お料理が通りますなのー！」
「おやおや、お嬢さん。天界に、お前さんのような可愛らしい天使がおったかな？　どこの出身だね？」
　なんて、天界の住人らしい、立派な髭をたくわえたおじいさん天使が、明里へ尋ねましたけれど。
「うーん。あかりには、分からないなの！　でも、あかりはきっと、ずーっと前から天使なのよー！　ちひひー♪」
「うんうん。とっても素敵な、天使だとも」
　明里はにっこり、ががー！　賑わいの中を駆け抜けていきました。



　天界の空へ、美しい月が上る頃。騒がしい賑わいは、やがてしっとりと落ち着いて優雅な空気へと変わり、ねこたちの楽団が奏でる楽器の音色も、慎ましく静かな音へと形を変えていきます。
　大天使 天吏は杯を掲げ、ふと、九夜山の主へ尋ねます。
「そういえば……主さま。九夜山におわす、大鯰の一族は、お元気でいらっしゃるでしょうか？」
「息災である。我が盟友ピエールも、その眷属らも。脅かされることもなく……これもそなたら、島の者らの静穏な気質が故にであるな」
「そうなんらー！　らからあたひは、えんかいがすきなんらぁ……♪」
「せーんぱーい、おさけぁたりまひぇんわよ～……うふふ、ふふふふ～♪」
　まさしくくんずほぐれつ、といった少々あられもない恰好で絡み合ったまま寝っ転がっている、酒浸 朱蘭と上下 左右の寝言めいた言葉には、主さまもくっくっと声を殺して笑い声を漏らし。お隣、主さまの親友である巨体の山神さまも、満足そうな顔を浮かべていて……天吏もどこか胸の中、満たされているのは、えもいわれぬ楽しい気分。
（……後で、空になった酒瓶の回収くらい、手伝ってあげようかしらね）
　如月 蘇芳は夜に咲く桜を見上げ、次いで春を司る女神さまのほんのりと上気した頬を見つめて、目の前にジュースの入ったグラスを掲げると、
「あなたの美しさに。ふふ、これは演技ではありませんよ」
「もう。神をからかうものじゃないわ……ふふふっ」
　重なる杯とグラスは、ちりん、と心地よい響きを奏でます。
　その音色に耳を澄ませて、冬の女神さまもどこかうっとり。
「いい夜桜ねえ……あなたたちのおかげで、今年も良い新年会になったわ。ありがとね」
「いえいえ。私たちのほうこそ、楽しかったですよ。また呼んでください」
「ええ、ぜひ」
　ユキ・ナカミチもまた、咲き誇る満開の桜を見上げて……幻想的なその光景に、少しばかりの、もの悲しさを感じて。
「……まるで古い友人に、久しぶりに巡り合うような……全ての苦しみを終えて、安堵に満たされるような。戻る場所を思い出すことすら、忘れさせるような……」
　もちろん、忘れないけど。そうつぶやくと、ユキは桜の威容を堪能し、同時に故郷たる、寝子島の春を想いました。



「ねこさんたち。お疲れさま……」
　ねこたちもまた料理を運んだり、食器を片づけたり神さまをご案内したり、と大奮闘。ひと仕事を終えた彼らへ、恵御納 夏朝は猫用のマッサージを施してあげました。その手並みはもちろん、本でちゃーんと勉強して、寝子島のにゃんこたちにも実践済みな本格派で、
「気持ちいい？」
「うニャああああ、癒されるのニャ……！」
「た、た、たまらないのニャ～……！」
「ふおおおお、ダメになるニャ、これはダメになるニャ……！」
　ふにゃふにゃ、うにゃにゃん！　大好評でありました。
　そうして、宴も終わりに近づいた頃。狐神さまと狸神さまにお酒を注ぎながら、千歳飴 楓子は、はたと気づきます。
「おお。そういえば」
「んん？　どーしたんだべ」
「あなたたちは、何の神さまなんだろうか。聞いてなかった」
「今さらかいな！　そりゃないでお嬢ちゃん～」
　この場には実に多種多様な神さまが集い、彼らを誠心誠意におもてなしした彼らも、楓子にも、きっと小さからぬご利益があったことでしょう。
　けれど。ふたを開けてみたなら、それをお目当てに、下心から行動しようという人は、ただのひとりもいませんでした。みんな、神さまたちが心地よく、楽しくこのひと時を過ごしてくれることが、嬉しかったのです。それだけで、じゅうぶんだったのです。
　その証拠に。
「お嬢ちゃんや。ワシらに何か、お願いごとはないかのう？」
「お礼にね。私たちにできることなら、何でも言ってちょうだいね」
　狛鼠さんたちのそんな申し出に、羽生 碧南はうーん？　っとひとつ首を傾げてから、すぐに、にっこり。爽やか笑顔で、言ってのけたのでした。
「みんなで、いい一年を過ごせますようにっ！」