【星幽塔】第八階層　妖精のオーブと２人の乙女｜リアクション

【星幽塔】第八階層　妖精のオーブと２人の乙女

●朴念仁

「……くしゅっ！」
　ロベルト・エメリヤノフはくしゃみをすると、ずずっと鼻を啜った。
（風邪かな？　でも、そんな事今は気にならないよ。だって……！）
　ロベルトはむっふっふと１人微笑んだ。
　そう、彼がご機嫌なのには訳があった。
　実はサナからこっそり『魅惑の粉』を貰っていたロベルト。戦いが終わって早速それを自身に振りかけたのだ。
（これで僕もあいつの目に魅力的に映るはず……！）
　ロベルトは早く試したくてしょうがない。と、前から歩いてくるアカリを見つけた。
「おーい、来島！」
　ロベルトはタタタッとアカリに走り寄った。

「見て！　僕の雰囲気……変わった？　これから獅子目にも見せに行くんだ」
　楽しげに言うロベルトを前に、アカリは呆然と立ち尽くしていた。
　ロベルトに言われるまでもなかった。いつもだってドキドキするのに、何だか今は３倍増しくらいにロベルトが輝いて見えるのだ。
（どうしてだ？　さっき頑張る、って決めたから？）
　これが惚れた弱みというやつだろうか。しかしアカリは胸の中でグッと拳を握った。
（いや、でも頑張るなら弱いとこなんて見せらんない……！）
　アカリは内心の焦りを押し隠し、いつも通りの口調で言った。
「どうって……別にいつも通り、ですけど」
　その言葉にロベルトがしゅんとなる。その場でくるりと回りながら呟いた。
「とくに変わってないか……効果ないのかな」
　アカリはその呟きを聞き逃さなかった。
「効果……って、もしかして、魅惑の粉……？」
「い、いや違うよ？　ほら服が違うから雰囲気もみたいな……」
　あからさまに慌てるロベルトにアカリが低い声で呟いた。
「……バカじゃないですか。…………獅子目のとこ……行くんですか」
「う？　うん、そうそう！　ゆっくり話してないしね！」
　あははと笑って踵を返したロベルト。その服の裾がそっと掴まれた。

「……来島？」
　振り向いたロベルトに、アカリは下を見ながら小さく言った。
「……俺も、行きます」
　―――頑張るって、決めたから。