夜とお菓子と、あとひとつ。｜リアクション

夜とお菓子と、あとひとつ。

「ひ、ヒィィ！？」
　深夜の猫鳴館の一角に悲鳴が響く。
　切れかけの電灯が怪しく瞬く廊下の奥、隙間風の吹き込む一室で、節約のために暗く落とした電気の下、後木真央は手にしたスマートフォンを両手に押し戴いて跪く。それでも足らずにジャパニーズドゲザの構えを取る。

　天井の電灯よりも眩しいスマートフォンの画面には、ねこったーアプリが表示されている。『究極の夜食』と題したお味噌汁とおにぎりの画像に、『#飯テロ予告』と題した豆腐製のお好み焼き作成を逐一実況する呟きに。どれもこれもが深夜に目にするには毒に過ぎる。
　とは言え、真央にしてみればその飯テロ画像は、
「神降臨なのだ」
　そう呼ぶにふさわしきもの。
「こ、こんな深夜に……」
　押し戴いたスマホを上目づかいに見遣る。鮮やかなエメラルド色した瞳に映るは、怒涛の如く流れ寄せる飯テロ画像。
「やばいのだ」
　ごくりと喉を上下させ、真央はスマホ画面を凝視する。深夜の飯テロは時折目にしてきたが、今日の飯テロ画像は量も質も特に神がかっていた。
　暖房のない部屋で毛布に包まったまま、真央は壮絶な音を立てて腹が減ったと鳴き喚く胃袋を抑えて文字通り七転八倒、
「胃袋直撃デラックスハイパーなのだ～」
　挙句に五体投地でスマホ画面に降臨した神を怪しげな呪文と共に伏し拝む。ゴメンナサイゴメンナサイ、コンナ時間ニ食ベルワケニハ。
　女子としての理性から発した呪文も、けれど圧倒的な空腹には叶わない。
　しばらく食欲と闘って後、
「……真央ちゃんは……」
　真央はやおら荒れ狂うゾンビのように毛布をかなぐり捨てて立ち上がった。
「真央ちゃんは食キング(ショッキング)を目指しているのだ理性如きに負けてたまるかなのだウォォォォ！」
　雄叫びを上げながらも、深夜に調理すれば相応の騒音が立つだろうという配慮は忘れない。部屋の入り口に置いた赤猫リュックに財布とデジカメとスマートフォンのお出かけ三種の神器を突っ込み、
「真央ちゃんは今キングに、……」
　宣言しかけたところで、胃袋からの天啓を受けた。ぐううう、と鳴る空っぽの胃袋は告げる。おまえこそ神となるのだ。
　真央は力強く頷く。
「今こそ！　真央ちゃんは神になるのだ～！」
　廊下に設置されたオンボロ共用キッチンで調理の音をたてるよりも激しい怪音を口から迸らせつつ、真央は部屋の外へ飛び出し、猫鳴館の階段を駆け下りる。神候補である真央がまず目指すは、深夜の繁華街。
「補導が怖くて神になれるかなのだＵｒｙｙｙｙｙ～！」