夜とお菓子と、あとひとつ。｜リアクション

夜とお菓子と、あとひとつ。

＜飯テロ絶対に許さないから……(震え声＞
　手慣れた動作でスマートフォンを操作してねこったーに投稿するなり、七緒璃音は転がっていたベッドから起き上がった。
＜ちょっと冷蔵庫漁ってくる＞
　打ち込んだ途端、画面に新しい呟きを知らせるマークがついた。反射的に更新ボタンを押して、
＜『究極の夜食』＞
　と題した具だくさんお味噌汁とシンプルな塩おにぎりの写真を目にする。なんだかもう愛情たっぷりなお母さんの味的な夜食を目にした途端、胃が痛むほどの空腹を感じてしまった。
「おのれ飯テロ」
　発言主が先日誕生日を祝った友人であることを確かめ、璃音は思わず口に出して低く唸る。
(……普通に腹減ったわ！)
＜オボエテロ＞
　咄嗟に宛先を示さず怨嗟の言葉を投稿してから、璃音はがりがりと頭を掻いた。そう言ったはいいものの、冷蔵庫の中に食材は残っていただろうか。
(さすがにガッツリ料理する気はねぇしなぁ……)
　ベッドに寝転がってねこったーをお供にだらだらと夜更かしをしているうちに乱れた栗色の髪を適当にうなじで結い、キッチンの電気を点ける。

　ひんやりとした台所の冷蔵庫を開ける。独り暮らしの冷蔵庫は、しばらく買い出しをさぼっていたせいもあって食材に乏しい。
(……うーんすぐ食えそうなもん……)
　見つけたのは、賞味期限の近い豆腐が一丁。
　作業台に乗せた豆腐を前に、スマホでレシピを探す。ブラウザで検索サイトを呼びだし、『豆腐　夜食』と打ち込めば、あっという間に千を超す豆腐を使った夜食のレシピが表示される。
(おー、これ良さげじゃね？)
　然程迷わず決めたレシピに目を通し、
＜じゃあウチ今から夜食作ってくるんで……　#飯テロ予告＞
　ねこったーで実況しつつ、料理開始。
　野菜室から取り出したるは半切りの上に大分小さくなったキャベツ。数枚剥いで千切りにし、水に晒したところでスマホで写真をパシャリ。
＜こうして＞
　豆腐をボウルにあけて潰し、卵と水切りしたキャベツを混ぜ込んだところでもう一度写真を撮る。
＜こうして＞
　作業風景を逐一写真に撮り、ねこったーにアップロードする。
＜クックック……フォロワー達の悲鳴が聞こえてくるぜ……＞
　画面の光を顔の下から受けつつ、悪い顔をしてみる。
　フライパンを熱し、ごま油をひと垂らし。香ばしい匂いがたってきたところで豆腐の生地を入れる。こんがりと焼き色をつけつつ、思いついた。止めの一撃は冷蔵庫に一枚だけ残っていたスライスチーズにしよう。
＜飯テロする奴らが悪いんですーウチは何も悪くないですー　#責任転嫁＞