夜とお菓子と、あとひとつ。｜リアクション

夜とお菓子と、あとひとつ。

　電池を買ったコンビニの軒下を拝借する。店内から溢れる電灯の光を頼りにロードバイクに取りつけたテールライトの電池を交換する。
(ちょっとお喋りしすぎましたね……)
　冬の星座が煌く夜空に高く輝く白い月を見上げ、渥美ニナは白い息を吐き上げた。
(ロードの話題はつい盛り上がっちゃうな)
　養父母が営みニナも勤める鍵屋『鍵のあつみ』が休みの今日は、寝子島外の自転車仲間と共にツーリングに出掛けていた。遠出したついでにその地元の美味しいものを食べた。ツーリングを終えた後には、仲間の家の自転車用ガレージにお邪魔させてもらい、自転車の整備についてや新製品について、散々話し込んだ。それはそれでとても楽しかったけれど、寝子島に向けての帰り道、随分と暗くなった道で自転車のテールライトの電池が切れてしまった。
　蛍光色のアウターを着ているとは言え、結構なスピードで車道を走るロードバイク乗りにとって、車に存在を示すランプの電池切れは致命的。
(やっぱり止まっちゃうと寒いなぁ……)
　電池の交換がてら、コンビニの軒下で少し休憩する。自転車に乗っている間は、どんなに冷たい風を受けても心地よいくらいに身体が熱を生んでいたのに、足を動かすことを止めてしまえば、身体はあっと言う間に熱を失った。
　凍える指先を擦り合わせて息を吐きかけ、取り出したスマートフォンでねこったーアプリを起ち上げる。何気なくタイムラインを眺めていくうち、徐々にニナの眉が怪訝そうに顰まった。
(なんだか)
　登録者が書き込むフツウの呟きに差し込まれるようにして、今日は妙に画像が多い。しかもそのどれもこれもが美味しそうな、もう誰がアップロードしたのかも分からないほどに繰り返し繰り返し共有され続けた食べ物の写真。
(今日飯テロ画像やけに多くないですか！？)
　心の中で叫んだ途端、長距離を走り続けて空っぽになった胃袋が寂しく鳴いた。思わずお腹を押さえてぐるりを見回し、周りに誰も居ないことを確かめる。
　背のリュックには補給食に最適なあんぱんが余っている。その上、背後にはコンビニがある。
(だけどそれじゃちょーっと味気ありませんね)
　ねこったー画面を閉じ、地図アプリを開く。すぐさま現れる周辺地図と現在地を確認し、寝子島までのルートを検索する。
(残り……約三十キロかぁ)
　画面を操作し、寝子島駅を少し過ぎた寝子島街道沿いにあるラーメン屋に目的地を定める。
(まぁ、)
　ロードバイクで走れば一時間程度で着く。
(もうちょっと、我慢です)
　不満の声を上げる腹をひと撫でして、サドルに跨る。深夜まで営業しているあのラーメン屋は、塩ラーメンがとても美味い。
　鰹に昆布、野菜の旨味がたっぷり溶け込んだ澄んだスープと、スープをよく絡める細いストレート麺を思い、ニナは力強くペダルを踏み込んだ。

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