【星幽塔】第七階層　消え去った情熱をもう１度｜リアクション

【星幽塔】第七階層　消え去った情熱をもう１度

●それぞれの情熱～北原みゆきの場合～

　レオーネの前に立つ少女は、手に持った黒い剣をレオーネへと向ける。
「レオーネ様！」
　動こうとしたシェルタンと、唸り声を上げたラサラスをレオーネが手だけで制する。
「よい。名前を聞こうか、娘よ」
　黒い剣の切っ先に臆する事もなく、レオーネが問い掛ける。
「名か……ノーラだ」

　そう言った彼女は確かにみゆきだったけれど、ノーラでもあった。
「私は私の中の何かを失った。それが何かはわからないが、な」
　そして新たに手に入れた力……星の力は自分のろっこんの力を強めていると彼女は感じている。
「失ったものを取り戻す為に旅をしていてな、熱意を失った女に再び情熱を取り戻そうとする冒険者がいると聞いて来てみたのだが……」
　多少はノーラ自身も楽しませてもらえるだろうかと物陰に隠れて冒険者達を傍観していたのだが――。
「期待していたようなものではなかったな」
「そうか？　私は中々に楽しませてもらっているぞ？　ノーラ、お前が出てきたのも面白いと思っている」
　不敵に笑うレオーネに、これが本来のこの館の女主人なのだとその場に居た者達が感じ取っていた。
「私を侮るか？　まだ本調子ではないだろうが……命のやり取りの中で貴様の情熱を燃え上がらせてやる」
　眉を顰めるノーラが改めて剣の切っ先をレオーネへと向ける。唸り声をあげて今にも飛び掛ろうとするラサラスを制し、レオーネが立ち上がる。
「シェルタン、剣を」
「は、ただいま」
　短いやり取りの中、レオーネがシェルタンから剣を受け取る。それはシャムシールと呼ばれる刀剣の一種で、獅子の意匠が施された湾曲した剣だった。しなやかな動きでそれを構え、レオーネはノーラへと向き合う。
「これは私とこの娘の勝負だ、邪魔することは我らへの侮辱と思ってもらおう」
　レオーネが腰を上げて２人を窺う者達へ、牽制の声を上げる。決して邪魔をしてくれるなというその想いに、止めるべきか悩んでいた者達も腰を下ろして２人の動向を見守るしかなかった。
「模擬戦のつもりはない、私は本気だ」
「ならば、私もそれに全力で応えよう」
　先に動いたのはノーラだった、黒剣を躊躇うことなくレオーネへと振り下ろす。軽やかなステップを踏み、その切っ先を避けるとレオーネがシャムシールを振るう。それをノーラが黒剣で受け止める――室内に響くのは２人の息遣いと剣戟のみ。いつしかそれは、戦いを見ていると言うよりも２人の演舞を見ているかのような錯覚に落ちるほど、視線を外せないものとなっていた。
「本調子ではないのだろうに、よく躱す！　やはり命が掛かれば必死にもなるのか！」
「こんなものは命のやり取りのうちには入らぬよ。いい運動になった……と言うべきか！」
　お互いが一歩踏み込み、黒剣とシャムシールが競り合う、力は互角のように思えたが先に引いたのはノーラで、距離を取ったかと思えば黒剣を鞘へと静めた。
「もう終わりか？」
「このまま続けても勝負が着かないだろう。これ以上は無意味だ」
「そうか、私は中々に楽しかったぞ」
　晴れやかに笑ったレオーネを睨み、ノーラが踵を返して部屋を出て行こうとした瞬間に黒剣が輝いて、すっとレオーネへ吸い込まれていく。それでも振り返ることなく、ノーラは満たされない心を背負ったまま黒い影を追う為に部屋を去った。
　レオーネがシャムシールをシェルタンへ渡し、一息吐いてソファへと座り直すとヒーローの姿をした風雲児轟が立ち上がる。
「次は俺が行こうか」
　寝子島のローカルヒーロー、ザ・ストレイトがレオーネの前へ歩み出た。