【星幽塔】第七階層　消え去った情熱をもう１度｜リアクション

【星幽塔】第七階層　消え去った情熱をもう１度

●それぞれの情熱～東条あんずの場合～

　ゴールデンレトリバーに跨ったまま、あんずはレオーネの前へと向かった。この犬は星の力の１つ、騎士の光が変化したものであんずのお気に入りだ。
「よいしょっと」
　さすがに人と話をする時にずっと跨っているのもと思ったのかあんずが降りれば、ゴールデンレトリバーはあんずのクッションになるようにそっと横たわる。それはまるでレオーネの獅子ラサラスのようで、あんずはソファにもたれるようにその身を預けた。
「好きなものー、うーん……うち、いーっぱい好きなものあるぞ！　ご飯食べるのも好きだし、麻雀も好き！」
　９歳にして麻雀が好きなのはあんずのパパの影響だ。膝に座って見ていたら自然と覚えてしまったのだと彼女は言う。きっとそれもあんずが情熱を傾ける物のひとつ。
「でも、いーっちばん好きなのは、やっぱり動物！　犬も猫も鳥もうさぎも、みーんな大好き！　レオーネおねーさんの、そのライオンもすっごくかっこいー！」
　動物は可愛いだけでなく、触り心地だっていい。それから素直で優しい生き物だ。あんずは小さい頃から動物に触れる機会が多かったせいか、感覚的にそれを知っていた。
「うち、小さな頃からチビと過ごしてるから、チビの言うことならなーんでもわかるぞ！　あ、チビっていうのは、うちと一緒に暮らしてる犬のことだぞ！　この子みたいな感じ！」
　そう言って両手を伸ばすと、ゴールデンレトリバーを抱き締める。
「チビはおっきくてふわふわで太陽の香りがするんだー！　うちが困ってたら助けてくれるくらい優しいんだ！　物をなくしたら一緒に探してくれるし、重い荷物持ってたら一緒に運んでくれるんだ！　チビは優しくて力持ちで、最高の家族なんだ！！」
　全身から大好きが溢れて零れだすほど、あんずのチビへの想いは熱い。その姿はとても微笑ましくて、レオーネの唇に笑みが浮かんだ。
「レオーネおねーさんの、そのライオンもそうじゃないの？　ずーっとレオーネおねーさんを心配してくっついてるの、うちにもわかるぞ！」
　あんずの言葉に、ラサラスが反応して首を動かし、レオーネを見る。
「ああ、そうだ。ラサラスは生まれた時から私が面倒を見て育てた子だ。ラサラスの事ならなんでもわかる……私を心配しているのもな」
　レオーネがラサラスへと手を伸ばせば、ラサラスがその手に顔を摺り寄せて甘え、嬉しそうに鳴いた。
「えへへ、可愛いね！　あっ！　レオーネおねーさん、てー出して！」
　手を、と言われてレオーネはラサラスを撫でていた手をあんずへと差し出す。その手を繋ぐと、あんずはわんわん！　と犬の鳴声を真似た。ろっこん、『もふもふぱにっく』の発動である。

「これでお揃いだぞー！　えへへ、かわいいぞー！！」
「これは……なんとも不思議な力を持っているのだな」
　自分の身体に起こった異変に驚きつつ、レオーネが頭に生えた耳と、尾骶骨辺りから生えた尻尾を触って笑う。
「そうだ！　レオーネおねーさん！　この子にお名前つけて！」
　ゴールデンレトリバーをぽんぽん、と優しく叩いてあんずがお願いをする。
「私が……か？」
「レオーネおねーさんとこの子はもうお友達だから、つけて欲しいの！　……ええと、だめ？」
「駄目ではないが……そうだな、それなら……ラフィーク、ラフィというのはどうだ」
　あんずが口の中でラフィ、ラフィと繰り返し呟く。そしてぱっと顔を上げ、
「かわいい名前だ！　えへへ、よろしくなーラフィーク、ラフィ！」
　ラフィ、と呼ばれたゴールデンレトリバーが嬉しそうな声で鳴くと、淡い桃色の光がラフィからレオーネへと放たれる。またひとつ辺りの空気が軽くなるのを感じ、あんずはラフィと一緒にレオーネの前から下がっていく。
「あ、じゃあ次は私が……」
　控え目に手を上げたのは水上桜で、翡翠色のスカートを翻して立ち上がった。